消費者の嗜好が多様化してきたことやインターネットの普及など、市場が大きく変化したことにより、大企業や中小企業、スタートアップ含め、どのような企業にもマーケティングの戦略は重要です。本稿では、マーケティング戦略とはなにか?戦略を進めるためのステップなど解説します。

マーケティング戦略とは?

マーケティング戦略の前に、マーケティングとは何かをご紹介します。

マーケティングとは、有識者や団体によって様々な定義がありますが、様々な定義に共通している要素は「売れる(儲かる)仕組みを作る」ということです。決して広告や調査だけの一面的な要素ではなく、様々な要素を組み合わせて売れる仕組みを作ることです。

この売れる(儲かる)仕組みを作るために、価値を、誰に、どのような手法を用いて、「売れる(儲かる)仕組みを作る」のかを策定するのが、マーケティング戦略の役割です。

経営戦略とマーケティング戦略の違い

このように聞くと、経営戦略と何が違うのだろうと思う方もいるかと思います。ここで、経営戦略とマーケティング戦略の違いをご紹介します。

経営戦略とは、中長期的にビジネス全体の持続的成長のための経営資源を最適に配分するための戦略です。

例えば、人事戦略・財務戦略などが含まれ、新規参入や事業撤退など大きな判断をするための戦略です。

それに対して、マーケティング戦略は企業が顧客にプロダクトを売るための仕組みを作るための戦略に集中します。マーケティング戦略は、経営戦略を決めるための重要な戦略の一部です。


なぜマーケティング戦略が重要なのか

なぜ、これほどマーケティング戦略が企業にとって重要になってきているのでしょうか?マーケティング戦略が重要になっている理由は、大きく3点あります。

消費者の多様化

まず1点目は、顧客の多様化です。以前の日本では、「3種の神器(冷蔵庫・洗濯機・テレビ)」や「3C(カラーテレビ・車・クーラー)」など消費者は同じものを求めるなど価値観が単一的でした。そのため、企業は商品を作り、販売していれば売れていました。

しかし、モノが溢れてきたことやインターネットの普及に伴い、消費者の価値観が多様化してきた結果、従来どおりの方法ではモノが売れなくなりました。そこで、消費者の理解や差別化などを検討するマーケティング戦略が注目れるようになりました。

消費者と企業の接点増加

2点目は、消費者との接点が増えたことです。以前は、テレビや新聞など企業が消費者にコミュニケーションできる媒体は限られていました。

しかし、WEBサイトやアプリなど様々な媒体の出現や、SNSが普及した結果、これまで以上に企業には消費者とのコミュニケーションが求められるようになりました。

このように複数の媒体において、どのように企業がメッセージを発信していくのか、消費者との関係を作っていくのかを検討する上で、マーケティング戦略が必要となってきています。

消費者属性行動の把握

3点目、デジタル化が浸透することに伴い、消費者の情報がより正確に把握できるようになったことです。

以前は、消費者向けにコミュニケーションをしようとしても、F2、M3 などの大枠でしか消費者を捉えられませんでした。

しかし、IT化が進み、消費者一人ひとりの細かな情報が取得できるようになったことで、ユーザー毎に最適化されたコミュニケーションが可能となりました。その結果、より効率的に、高い精度のマーケティング戦略が一層求められてきています。

マーケティング戦略を考える上で重要なステップ

それでは、ここから実際にマーケティング戦略を進めるための重要なステップをご紹介します。実際のステップを進めるときに有効なフレームワークは次章でご説明します。

マーケティング戦略は,6つのステップから構成される

STEP1:PEST分析でマクロ環境分析

PEST分析は政治(Politics)経済(Economy)社会(Society)技術(Technology)が由来しており、マクロ環境分析の際に用いられるフレームワークです。

  • Politics(政治):薬事法などの法規制
  • Economics(経済):株式市場や経済動向
  • Society(社会):外出自粛などのライフスタイルや社会動向
  • Technology(技術):5GやIoTなど技術革新

より広い視点で分析し、3年後など中期的なトレンドを掴むことができます。

STEP2:3C分析でミクロ環境分析

PEST分析にて中長期的なトレンドについて理解したら、自社・消費者・競合の3C分析をします。

ここでは、どのような目的で事業をするのかを確認する程度にしておき、消費者と競合の理解を十手店手系に行いましょう。詳細な自社の分析はSWOT分析に落とし込み、解釈していきます。

STEP3:SWOT分析でマクロ・ミクロ環境を俯瞰する

SWOT分析は「市場と競合の分析を通じて、自社が生きる戦略」を見つけるフレームワークです。具体的には以下の表をご覧ください。

SWOT分析には、内部・外部要因、ポジティブ・ネガティブ要因があることも意識する

これまでのPEST分析や3C分析で積み上げたファクトと自社の状況を勘案し、優れたアイデアを生み出すことで、成長する機会を見つけるのがSWOT分析です。

また、より粒度の高い分析を可能にする「クロスSWOT分析」も有効です。
詳細は以下の記事をご覧ください。

STEP4:STP分析

SWOT分析を終えたら、分析結果をもとにマーケティングの基本戦略となるSTP分析に落とし込みます。

STP分析とは、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、ポジショニング(Pogistioniing)というマーケティングの大きな方向性を決め込むことです。

セグメンテーション(市場の細分化)

市場環境が把握できたら、多様な要素から構成される市場を自社プロダクトが最も適しているターゲット市場に細分化します。

この市場の細分化をセグメンテーションと呼びます。市場は様々な消費者の塊です。例えば、車市場だけでも「運転好き」、「家族との旅行用」、「近場の運転に使いたい」など様々なニーズがあります。

このようなニーズをひとくくりにして、車が欲しい人と捉えてしまうと自社のプロダクトを求めていない人までをターゲットとすることになります。

これを避けるために市場を細分化することで、より深いコミュニケーションをすることが可能です。

ターゲティング

アプローチする市場が決定できたら「自社が理想とする顧客像を見つけ出すターゲティング」をします。

このプロセスで顧客な詳細なプロフィールを記載したペルソナを作る企業が多いです。

市場は多種多様な人から構成されており、それらに対して全方位的に施策を展開することは、効率的な予算の使い方ではないからです。

ポジショニング

ターゲティングにより自社がターゲットとする明確な顧客像を理解したら「顧客に、自社のプロダクト・サービスがどのように魅力的であるかを認識させるための活動」を行います。

これがポジショニングです。

顧客は競合企業と比較して購入するプロダクトを選定するため、自社のプロダクト・サービスが競合と「何が違うのか」といった差別化をする必要があります。

顧客を「私はこれを求めていた」「この商品が欲しい」と思わせる差別化をし、そのブランドイメージを顧客に浸透させましょう。

STEP4:マーケティングミックスの検討(4P分析・4C分析)

マーケティングミックスと言われる4C・4P分析の比較

STP分析を終えたら、マーケティングミックスを検討します。
自社のプロダクト・サービスの価値ををどのように消費者に届けるのかを検討するフェーズと考えましょう。

ここではコミュニケーションだけでなく、物流やプロダクトの設計など、顧客との接点となるあらゆる要素を考慮して手法を策定しましょう。

近年では、マーケティングミックスは4Pと4Cをベースに立案するのが一般的です。

4Pは製品戦略(Product)価格戦略(Price)流通戦略(Place)販促戦略(Promotion)を指し、
4Cは顧客価値(Customer value)顧客にとってのコスト(Cost)利便性(Convienece)コミュニケーション(Communication)を指します。

4Pは企業目線、4Cは顧客目線から構成されており、両者を活用することで主観と客観を持ち合わせた施策を実行できます。

マーケティング戦略の構築についての詳しい解説は、こちらの記事でしております。

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マーケティング戦略に効果的なフレームワーク・考え方

具体的にマーケティング戦略を進めていく上で有効なフレームワークをご紹介します。

PMF検証

PMFとはProduct Market Fitの略でありNetscapeの創始者マーク・アンドリーセンの格言であり、スタートアップなどには欠かせない考え方です。

いくら商品が良くても、市場が小さければ意味がないですし、市場がいくら大きくても満足させるような商品がなければ意味がありません。

「良い市場を狙い、かつ、その市場を満足させることができる製品を持っている状態」がマーケティングにおいても重要です。

PMFを検証するためには、先行指標調査などの手法があります。

先行手法調査では、例えば「あなたは、このプロダクトが使えなくなったらどう感じますか?」と聞いて、4割以上が「とても残念に思う」と回答したらPMFが達成されていると考えられます。

市場分析などを進める上で、自社のプロダクトがPMFしているのかをしっかり検証しましょう。

5フォース分析

5フォース分析は、外部環境分析の特に、事業環境を分析するためのフレームワークであり、マイケル・ポーターによって提唱されたものです。

「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」「競争企業間の敵対関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の5つの要素が市場の収益性に影響するというものです。それぞれの力が強いほど、市場の収益性が低いと分析されます。

進出する市場が良い市場であるのかを判断する材料として、PMF検証などと合わせて活用すると有効です。

BCGマトリックス

BCGマトリックスとは、ボストンコンサルティンググループが発案したフレームワークです。

マーケット成長率とマーケットシェアを切り口にプロダクトのポジショニングを策定して、中長期的計画を立案するのに活用します。サービスを「負け犬、問題児、金のなる木、花形」にマトリックスで整理し、戦略の検討が行えます。

BCGマトリクスを図解

例えば、負け犬では事業の撤退の検討、金のなる木では、どのように安定した成長を促進するのかの戦略を検討します。このように、BCGマトリックスは戦略の方向性を整理するためのフレームワークとして効果的です。

代表的なマーケティング戦略とその事例

ここでは、具体的な戦略の代表例、事例をご紹介します。

徹底した差別化を図る「弱者の戦略」

弱者の戦略とは、徹底的に差別化を図る戦略です。戦略のポイントは、局地戦、1点集中です。大企業が進出していないニッチ市場に特化し、その市場に集中し大企業の弱点を攻撃するというものです。

事例

弱者の戦略で成功を収めた事例として有名なのがアパホテルです。

従来のホテルは駅前の便利な場所で、広いスペースに立地していました。しかし、そのような場所は地価が高いため、宿泊料が高くなります。それに対し、アパホテルは通常のホテルでは立地が難しい間口が狭い土地などを活用することで、従来のビジネスホテルでは難しい低価格な宿泊料を実現しました。

その他、フリーチェックアウトシステムや社長を活用した広告など、他のホテルと徹底的に差別化するサービスやコミュニケーションを行うことで現在の成功を収めています。

特定地域内での支配戦略-「ドミナント戦略」

ドミナントは「支配的」「優位的」と訳されますが、自社の支配的優位性をかつよした戦略を行うものです。例えば、ある地域に集中して店舗を展開することにより、物流などの効率化を図り、地域内シェアを拡大することです。

事例

ドミナント戦略で有名なのはセブンイレブンです。セブンイレブンは、2013年時点で業界2位のローソンより店舗数が3000店舗も多かったが、出店エリアは40都道府県に限定しました。それに対してローソンは全国に展開していました。このように、出店エリアを限定することにより、そのエリア内でのシェアを高め、物流の効率化を進めることで成長しました。

コンビニの場合、エリアは県レベルではなく、さらに狭い区・町レベルで検討されています。

単一メーカーによる効率的な市場支配-「マルチブランド戦略」

マルチブランド戦略とは、同一市場において複数のブランドを展開することにより、単一メーカーで市場のカバー力を高め、市場の活性化をさせる戦略です。しかし、一つの市場で複数製品を展開してしまうため、カニバリズムが懸念されます。

事例

マルチブランドを展開している企業としては、ネスレ、P&G、コカコーラ等があげられます。例えば、ネスレはミネラルウォーターだけで「ペリエ」「ヴィッテル」「コントレックス」など6ブランドを展開しています。

マーケティング戦略を構築する上で注意しなければいけないこと

代表的な戦略をご紹介してきましたが、マーケティング戦略を進める上で注意すべきポイントをご紹介します。

製品・サービスのマーケティングと営業への適性

マーケティングと営業は補完関係にあります。例えば、マーケティング活動が弱い場合は、営業部隊の頑張りが必要になります。その一方で営業が弱いエリアに対しては、マーケティング活動のサポートが必要になります。

例えば、TVCMが放映されることが営業をする上での口説き文句になる場合もあります。このようにマーケティングと営業は離すことができない関係です。

しかし、全てのプロダクトが同様のバランスではありません。C向けなのかB向けなのか、展開する市場規模により、マーケティングと営業のバランスは変わります。自社の商品はどちらの要素が重要なのかの適性を判断しましょう。

「万能」は目指すな

マーケティング戦略では、取捨選択が重要です。市場全てを狙おうとして広く顧客をターゲティングしても、結果的にはどこのターゲットも取れないかもしれません。マーケティングは「万能」ではありません。

市場をしっかり絞り込み、狙った市場を確実に取りに行く事が重要です。

マーケティング予算は多くのチャネルに分散させる

3点目は、マーケティング予算を分散させることを意識しましょう。今までの経験で、TVCMだけに予算を使うことや過去と同じ施策を展開するといったことを検討するかもしれません。

しかし、マーケティングに重要なのは、PDCAを回しながら改善していくことです。

マーケティング予算を配分する上でも、どのチャネルに効果がありそうなのか試すことが重要です。

そのためには、なるべく多くのチャネルに予算を分散し効果を検証しつつ、レバレッジが見つかったら、集中するということを意識しましょう。

データは神よりも正しい

ウェブでの行動データなどを始め、IoTが普及することで現在消費者の様々な行動のデータが取得できるようになっています。

マーケティングを進める上で、どうしても勘や経験に頼ってしまうことがあるかと思います。しかし、データほど消費者のリアルを語るものはありません。そのため、常にデータをどのように咀嚼し、活用するのかを意識しましょう。

マーケティングの戦略論を勉強したい方に2冊おすすめ書籍を紹介

最後にマーケティング戦略論を学ぶための参考の書籍をご紹介したいと思います。

マーケティング戦略論の本を選ぶポイント

書店のマーケティングエリアを見ても、毎日新たな本が登場しており、どの本を選ぶのか悩むかと思います。

変化のサイクルが早い=流行りの戦略を学んでもすぐに使えなくなる

消費者から新たな情報が取得できる様になった結果、市場構造の理解が把握でき、新たな戦略が開発されています。新たなトレンドをしっかりフォローすることも重要ですが、ここには一過性があります。

トレンドの戦略を学んでも、来年には使えなくなるかもしれません。しかし、伝統的な戦略はいまでも語られ、使われ続けているからこそ残っています。このような伝統的な戦略をしっかり学ぶことを最初はおすすめします。

伝統的な戦略論を学ぶ-グロービスMBAマーケティング(ダイヤモンド社)

最初に紹介するのは、グロービスMBAマーケティングです。グロービス経営大学院のマーケティングの参考書であり、体系的に伝統的なマーケティング戦略がまとめてあるため、初心者でもわかりやすく理解することができます。

最新の戦略論-マーケティング戦略(有斐閣)

幅広くマーケティング戦略がカバーされており、伝統の戦略から最新の事例も含む最新の戦略論まで紹介されております。最新のマーケティング戦略まで学ぶのに有効な本です。

まとめ

いかがでしたでしょうか?マーケティング戦略は、多様化し複雑化している現代の市場において欠かせない考え方になっています。市場と顧客を理解し、自社ならではの価値をみつけるのに有効です。まずは自社の強みや競合状況などの市場分析から初めてはいかがでしょうか。