筆者の関谷は、事業戦略コンサルタントとして大手企業を中心とし、多くのクライアント企業を支援してきました。

その際時折発生していた、「目的と手段が入れ替わり、目的が手段化する理由」と、その解決策について以下考察してみたいと思います。

前提:目的と手段の関係について

言うまでもないと思いますが、まず目的とは、「最終的に到達したい地点」を指し、手段とは、「目的を達成するために使用する方法」を指します。

この定義の時点で既に主従関係が成立していることに注意してください。本来的には、目的がなければ手段は生じえません。


目的と手段が入れ替わり、目的が手段化する理由

目的と手段が入れ替わり、目的が手段化する理由としては、大きく3つの理由があります。

  1. 目的設定が極めて曖昧
  2. 時間経過によって、目的が忘れ去られる
  3. 他社事例を参考に、手段を考えている

以下で、詳しく見ていきましょう。

1.目的設定が極めて曖昧

これは手段と目的の入れ替わり云々以前に問題ですが、実はかなり多くの人が陥っています。

例を出してみると、例えば以下は目的として適切でしょうか?

  • 運動して体重を落としたい

一見目的としては正しいように見えますが、筆者から見るとあまり良い目的とは言えません。なぜでしょうか。

1.手段が目的に既に含まれている

それは、「手段が目的に既に含まれている」からです。運動して、という手段が含まれてしまっている時点で目的としては不適切です。なぜなら、体重を落とす方法は食事制限だったり、他にも色々あるからです。極論、筋肉量を落としても体重は減ります。

下の話にも繋がりますが、「なぜ体重を落としたいのか」をもっと深堀りしていきましょう。5Whysを使ってもいいですね。

2. 体重を落とすのが本当の目的ではない。

※ここからが重要

実は目的というのは、階層構造になっているのです。一見あなたが目的だと思ったものは、もう一つ上の概念の手段に実はなっているはずです。

「体重を落としたい」というのは、何かしらの原因を解決するための手段だと思います。例えば、

  1. 好きな人に、可愛く見られたい/カッコよく見られたい
  2. 体型の変化を元に戻したい。
  3. 健康診断の結果が悪く、それを直したい。

・・・

などなど、もう一段上の目的があるはずです。また、ご想像のとおり、さらにこの上にも目的が存在します。例えば、こんな感じです。

体重を減らしたい

↓Why?

カッコよく見られたい/可愛く見られたいから

↓Why?

好きな人から、好きになってもらいたい/好きでいて欲しいから

↓Why?

相思相愛でいたいから

↓Why?

それが自分にとっての幸せだから

といった感じです。このケースにおいては、自分が幸せになりたいから、好きな人に好かれるため、体重を減らしたいということが分かります。

なので、実は「目的を決める」には、どのレイヤで目的をセットするかを考える必要があり、これが結構曲者です。

個人的には、上記のように長々書いておくと目的がずれそうなときの拠り所になるのでオススメですが、資料などで書くとしたら、「好きな人に、カッコよく見られたい/可愛く見られたいから」のレベル感が良いと思います。

このように、目的を考える場合は深堀りが必須です。5Whysなどを活用し、その目的の背景も含めて改めて考えてみると、かなりやることがシャープに見えてくるはずです。

このように深堀りするメリットとして、「誤った手段が分かる」というのがあります。

上記のケースだと、

  • 根本的な手段の誤り
    • そもそもあなたの好きな人は、痩せ型の人が好きでないかも?(→体重を減らすのは逆効果)
    • カッコよく見られる/可愛く見られるためには、体重を落とす以外の方法が有効(例:ファッションを変える)
  • 手段の方向性
    • 体重を落とすことによって、逆にかっこ悪くなる/可愛くなくなる副作用が出てはいけない(例:肌が荒れる、など)
    • 体重を落とすことによって、不健康になってはいけない(病気になったら、会えなくなるので)

・・・

などなど、何をすべきかが自ずと見えてきたりします。

以上のように、目的の中に手段が含まれないレベルまで一度概念のレベルを上げてから再度考えてみてください。これによって、手段と目的の入れ替わりが防げるだけでなく、誤った手段を取る確率がぐっと下がります。

2. 時間経過によって、目的が忘れ去られる

実際の実施時においては、手段ばかりに目がいきがちです。例えば上の例をそのまま使うと、体重を落とすためには走った方がいいのか、歩いた方がいいのか。時間はどのくらいが良いのか。直前に食べた方がいいものは何か、食事は制限すべきなのか、など。

こういった施策の改善はとても大事ですが、いつの間にか視野が狭くなり目的を見失うのはあるあるです。

例えば、過度な食事制限ばかりをし続けてストレスが貯まり、周りに優しくできなくなるなど。元々自分の幸せのために始めたダイエットがやがて自分を苦しめ、周りも傷つける結果になってしまうのは、本末転倒です。

こういったことは実際のプロジェクトでもよくあるので、例えば毎月ヘルスチェック的に目的を見直したりするのが良いでしょう。他にも、よく目にする(勝手に視界に入るのが重要)場所に目的を貼っておく、書いておくなども有効です。私は、目的・目標をデスクトップ画像にしたり、付箋にしたりしています。初心忘るべからず。

3.他社事例を参考に、手段を考えている

これはコンサルティングをやっているととても多いケースです。(コンサルティング案件では守秘義務があるため、実際のケースではなくイメージですが)例えば、サイバーエージェントでは表彰イベントを盛大に行っており、上手くいっているらしい。弊社でも出来ないか、というケースなどがあったとします。

表彰イベントは、おそらくやらないよりやった方がいい部類のものです。モチベーションアップ、業績アップ、離職率低減、採用力強化、PRなど様々な効果があるでしょう。

ここで抜け落ちている考え方は、「リソースは有限である」ということです。(この前提なく話す人はかなり多い..)

限りあるリソースを最大限活用し、最もレバレッジを効かせることが優秀なビジネスパーソンとしてやるべきことです。

ではこのとき、その効果とは何でしょうか?上の様々な効果のレベル感だと、絶対に失敗します。目的を具体化しましょう。そもそもこの目的がないケースだったり、極めて曖昧なケースは多々あります。(その場合は、上で述べた「手段が目的に既に含まれている」を参考にブラッシュアップしてください。)

ここでは仮に、若手人材の離職率低減を目的としたい、としましょう。

こうなったときに考えるべきは、「表彰イベント」が、最もこの目的に対して適切であるのか、ということです。

じつはこの議論をすっ飛ばしてプロジェクトを進めてしまうケースを見受けますが、とても危険です。失敗します。何故なら成果が出ないから。

目的から逆算すると、他の手段の方が適切であることが多々あります。例えば、1on1を月1実施する、メンターをつける、など。

そもそも、原因から逆算していない時点でダメですよね。

このように、他から事例を引っ張ってくると目的と大いにずれます。注意しましょう。ぱっと見良いアイデアでも、目的から逆算すると効果が薄いケースもありますので、一度立ち止まって検討してみてください。

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目的と手段が入れ替わることへの解決策(まとめ)

解決策は上で述べてしまっています。まとめると、①目的を深堀りして上位の目的を見つけ、②それを自分が目にする場所に置いておくこと③手段から考えている時には特に注意する となります。

これが出来るようになると、目的地まで最短で行けるようになります。息を吸うように出来るようになれば、あなたの人生も仕事もスムーズに進んでいくはずです。 今あなたが持っている目的を再度棚卸し、考えてみては如何でしょうか。