近代のマーケティングの第一人者とも言われるアメリカの経営学者フィリップ・コトラー教授が提唱した新しい概念が「マーケティング4.0」です。フィリップ・コトラー教授は、1968年に出版された「マーケティング・マネージメント」から、マーケティングの歴史を築いてきました。そのコトラー氏によるデジタル時代のマーケティング概念がマーケティング4.0です。本稿では、マーケティングの歴史から、マーケティング4.0により何が変わっていくのかなどご紹介します。是非ご参考にしてください。

Contents

マーケティング1.0~3.0をおさらい

まずはこれまでのマーケティングの歴史をおさらいしたいと思います。マーケティングは市場環境により形を変化してきました。それぞれの時代の特徴をご紹介します。

マーケティングトレンドの変化

マーケティング1.0

マーケティングがはじまったのは、第二次産業革命頃といわれています。この頃は製品中心ともいわれており、モノの種類も少なかったため、企業はコストを抑えて製品を大量に生産し、消費者に伝えればモノが売れる時代でした。そのため、どれだけ良い商品を作るか、そしてそれをどう伝えるのかと製品が中心に考えられていました。

マーケティング2.0

1970年代頃には、経済発展に伴いモノが溢れてきたことや、オイルショックが起きた影響で消費者の需要が落ち込むことで、製品を生産するだけでは売れなくなってきました。

その結果、消費者がどのようなものを求めているのか、どんなニーズがあるのかを検討し、プロダクトの差別化などを進める消費者中心の時代へと移行しました。この時代はマーケティング2.0といわれます。

マーケティング3.0

1990年代になるとインターネットが登場してきたことで消費者のコミュニケーション手段が大きく変化しました。従来は、消費者が得るプロダクトに関する情報は企業から一方的なコミュニケーションによるものが主でした。

しかし、インターネットが登場したことにより、消費者は自分が求める情報を自由に手に入るようになったり、企業との双方向なコミュニケーションが可能になりました。

また、プロダクトの機能差による差別化することが難しくなった結果、プロダクトそのものではなく、プロダクトによって得られるバリューはなにか、企業自体がどのように社会に貢献するのかやどのようなビジョンがあるのかなどが重視されはじめ、マーケティングの価値中心の時代となりました。この時代をマーケティング3.0と呼ばれます。

マーケティング4.0とはどんな時代か?

現在はこれらの時代を経て、マーケティング4.0時代と呼ばれています。マーケティング4.0は、自己実現の時代と呼ばれています。自己実現とは、マズローの欲求5段階説からきております。物質的欲求、精神的欲求が満たされた、次の段階が自己実現です。プロダクトを機能や価値で選ぶのではなく、プロダクトを使っていることによって自分がどのように見えるのかなどが重要になってきています。

マズローの欲求5段階

なぜ「自己」は重要視されるようになったのか

なぜマーケティングにおいて、「自己」が重視されるようになったのでしょうか?

テクノロジーの発達

1点目は、テクノロジーの発達です。マーケティング4.0の始まりは、SNSの登場がきっかけといわれています。SNSが登場したことで、消費者は企業との双方向のコミュニケーションが可能になり、口コミなど能動的な発信が可能となりました。

その結果、消費者は企業からのコミュニケーションより友人からの口コミなどを信用するようになっています。

モノからコトの時代へ

インターネットの発達により、どこにいてもなんでも購入できるようになったりしたことで、お金さえあれば様々なものが手に入るような時代になりました。
その結果、消費者は感動するような「体験」や「社会に貢献するという価値」が重要になってきています。つまり、人の関心がモノからコトに移行してきているのです。

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マーケティング4.0の時代では何が変わるのか?

マーケティング4.0の時代になると、どのようにマーケティングは変わってくるのでしょうか?

セグメンテーションから顧客との繋がりが重要視される

従来のマーケティング戦略の進め方は、まずデモグラフィックやジオグラフィックなどで消費者をひとくくりにしセグメンテーションを行います。その後、市場ボリュームや成長率などを踏まえてどのセグメントがもっともターゲットとして有効なのかを検討します。

しかしこの関係は、企業から一方的な関係であり、いわゆる「縦の繋がり」でした。

マーケティング4.0の時代では、ソーシャルネットワークで消費者同士が繋がり、ネットワークコミュニティを形成し、消費者自身の手でセグメントを形成しています。

企業がこのようなコミュニティーにアプローチするためには、コミュニティーを利用するという意識ではなく、コミュニティーの力になり、関係性を築く意識が必要になってきます。

このように、企業と顧客の関係は「横の繋がり」を持つようになりはじめるのです。

ポジショニング・差別化から”メッセージ”の時代へ

従来のマーケティングにとって、差別化やポジショニングが重要でした。そのために、多くの企業はブランドの確立に力を入れています。

ブランドとは、名称・ロゴ・キャッチコピーなどの競合と差別化だけでなく、顧客体験も含めた全ての企業活動もこれに当たるといっても過言ではありません。顧客のマインドを獲得し、ブランド・エクイティーを確立すためには、企業は明確な差別化ポイント、そして、一貫性のあるポジショニングが必要でした。

しかし、デジタル経済の結果、ブランド戦略も大きく変わります。消費者はブランドを簡単に評価できるようになってきており、客観性がないブランドは通用しなくなったのです。

VUCAの時代といわれ明日どうなっているかわからない今、繰り返し同じようなブランドイメージを伝えるだけではブランドをは育成できなくなっています。

その結果、いま重要になってきているのは、ブランドがなぜ存在しなければいけないのかの存在理由、メッセージです。

存在理由がしっかりしていれば外見がいくら変化しても問題はありません。例えば、GoogleやMTVはロゴを何度も変更していますが、ロゴを変更することで、「変わらぬ個性と柔軟性を併せ持つブランド」という認知を得ることに成功しています。

マーケティングミックスは企業視点の4Pから顧客視点の4Cへ

消費者に何をどのように提供するのかを決め、マーケティング戦略を具体化する重要な要素である「マーケティング・ミックス」。

その代表的なフレームワークは、4Pといわれるものであり、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の視点で施策を考えるものです。

コトラー氏は、マーケティング4.0の時代のマーケティング・ミックスは「4P」から「4C」の時代に変わるといわれています。4Cとは、Co-Creation(共創)、Currency(通貨)、Communal Activation(共同活性化)、Conversation(カンバセーション)の略です。

■ Co-Creation(共創)

デジタル経済では、共創が新たな製品開発戦略になって来るといわれています。製品の初期段階、コンセプトの段階から消費者を巻き込み、パーソナライズやカスタマイズしながら、より優れた製品開発を目指します。実際すでにLEGO社やMicrosoft社も大きく取り入れています。

■ Currency(通貨)

通貨とは、市場の需要に応じて変動することをさします。ダイナミックプライシングと呼ばれており、すでに航空券などに取り込まれている概念です。今後デジタル経済が進む中で、顧客の行動パターンやプロフィールなどに基づいた価格を請求することが可能となります。

■ Communal Activation(共同活性化)

全てがつながる世の中では、モノを利用する概念も所有から共有へと大きく変わります。消費者がほしいと思った瞬間に、自分が所有していなくても、他者が所有しているものを簡単に利用できるようになります。UberやAirbnbなどシェアリング・サービスなどが代表的な例です。

■ Conversation(カンバセーション)

従来のプロモーションは企業からの一方的なコミュニケーションでした。上述のとおり、ソーシャルネットワークの登場により、企業と消費者の双方向なコミュニケーションが可能になりました。その結果、消費者は企業に対してのレビューやフォーラムなど会話が主体のコミュニケーションになってきています。

UXが常に重要視される時代へ

消費者とのコミュニケーションが変わる中で、ユーザエクスペリエンス(UX)がより重要になってきています。

消費者がどのようなペインポイントを抱えているのか、何を必要としているのかを調査し、ブランドを通した体験を提供していくことが求められます。高いUXを提供することにより、顧客とのより良い繋がりが築ける時代となってきています。

4.0の時代ではオフラインが強力な武器となる

マーケティング4.0はデジタルの普及やSNSが普及したことで消費者と企業の関係性が変化してきました。このような時代だからこそ、より一層オフラインが企業にとって大きな武器となります。

伝統とデジタルマーケティングのメリットを融合する

IoTの普及、AIによる知識労働の自動化など、デジタルトランスフォーメーションが起きることで企業と消費者の交流はオンラインだけでなく、オフラインも含めて全てが一体化するようになってきます。その結果、オフラインでの購買データや行動データなども取得可能となり、より個人にあわせたマーケティング可能となっています。

さまざまなデータが取得できるようになり、人工知能などを活用したマーケティングの生産性向上が進むと同時に、オフラインでの人と人とのふれあいがより重要になってきています。

オンラインとオフラインの融合をうまく活用している例がAppleです。販売などはオンラインで完結するような仕組みを設計しつつ、オフラインの接点としてApple Storeでは様々なイベントを実施することで、最上の顧客体験を提供し差別化を図っています。

マーケティング4.0時代のフレームワーク

マーケティング4.0の時代に有効なフレームワークをご紹介します。

顧客視点(マーケットイン)の4C – ロバート・ローターボーン

マーケティング・ミックスのフレームワークがとして顧客時代に活用できるのが4Cです。4CはCustmor Value(顧客にとっての価値)、Customer Cost(顧客にとっての費用)、Convenience(顧客にとっての利便性)、Communication(顧客とのコミュニケーション)の4つの要素からきております。従来のフレームワーク4Pがメーカー視点だったのに対して、4Cは顧客視点で検討するものです。それぞれの詳細は下記ご紹介します。

■ Customer Value(顧客にとっての価値)

4PのProduct(製品)にあたる視点であり、プロダクトが顧客のどのようなニーズに答えるのか、顧客がどのようなメリットに答えられるのかという視点でプロダクトを規定します。

■ Cost(顧客にとっての費用)

4PのPrice(価格)にあたる視点で、プロダクトに顧客が支払うコストはいくらなのかプロダクトによってどの程度費用が削減できるのかという視点で価格を規定します。たとえば、商品により顧客の時間がどれくらい削減できるのかと製品に発生するコストのバランスを踏まえ、プロダクトの価格を顧客の視点でどのように映るのかなどを検討します。  

■ Convienece(利便性)

顧客が欲しいと思う場所はどこか、顧客が求めるイメージに合った場所はどこかという視点でプロダクトとの接点を規定します。例えば、顧客がいつでも手に入ることを求めているなら、コンビニなど手に入りやすい場所を販売場所として検討します。

■ Communicaiton(コミュニケーション)

顧客視点でのプロモーションになっているのか、求める情報を提供できているのかという視点で販促施策を規定します。例えば、コンテンツマーケティングで顧客が求める情報を提供できているのか、広告に触れたことで不快な思いをしないのかなどを検討します。

カスタマージャーニーは4Aから5Aへ

マーケティング4.0時代以前のカスタマージャーニーのフレームワークとしては4Aが有名です。4Aとは、認知(AWARE)、態度(ATTITUDE)、行動(ACT)、再行動(ACT AGAIN)の行動に由来亜しており、ブランドのゴールをリピートと定義していることが特徴です。
しかし、マーケティング4.0に移行したことでコトラー氏はカスタマージャーニーを5Aへと変化させるべきだと語っています。

カスタマージャーニー(4A-5A)

5Aは、認知(AWARE)、訴求(APEAL)、調査(ASK)、行動(ACT)、推奨(ADVOCATE)に由来します。ここで特徴的なのは、ブランドのゴールをリピートではなく、推奨としていることです。商品を再購入してもらうことではなく、他人にブランドを進めてもらうようなファンになってもらうことがマーケティング4.0時代には求められます。

マルチチャネルマーケティングの活用

マーケティング4.0の時代では消費者モデルが細分化し、マルチチャネルで消費者とコミュニケーションを取ることが重要です。

その際、チャネルごとの特性を理解し、消費者が何を求めているのかを理解した上で、チャネルごとのコンテンツを制作することが求められてきます。

BtoBでもマーケティング4.0は実現可能か?

マーケティング4.0は自己実現の時代とご説明してまいりましたが、それは企業が顧客となるBtoBでは有効ではないと感じる方もいらっしゃるかと思います。なぜなら企業に対して個人と同じように自己実現をイメージできるのが難しいからです。

しかし、マーケティング4.0に対しても機能させる手段があります。それは、企業という組織自体を個人と捉え、アプローチすることです。個人同様に、企業もどのようにありたいのかという「ビジョン」を持っています。このビジョンの実現に合わせて、企業にアプローチすることでBtoCと同様の効果が期待できます。

逆に、企業の場合は、個人と違い合理的な消費活動をとることが多いため、分析しやすく、アプローチをしやすくなる可能性もあります。

また、BtoBビジネスでも顧客は企業ですが、対応するのは個人です。このような個人をベースとしたマーケティング戦略も可能です。

マーケティング4.0の具体的な事例

具体的にマーケティング4.0で成功している事例をご紹介します。

■ レッドブル

レッドブルは、マーケティング4.0で成功を収めている企業です。レッドブルは、商品自体をコミュニケーションするのではなく、「カルチャー」をマーケティングしています。

例えば、宇宙からのスカイダイビングなどエクストリームスポーツの協賛やXスポーツのイベント開催・協賛を行い、SNSを通して活動を発信しています。

このようなマーケティング活動においては、レッドブルは主役としては扱われておらず、おまけ程度にしかコミュニケーションしています。

しかし、マーケティング活動の結果、レッドブルはエクストリーム(極限)というブランディングに成功し、クールでチャレンジングなことをしたい若者を中心に支持されるブランドとなりました。

「Wow!」で競合との圧倒的差別化を実現

マーケティング4.0では、顧客をファン化(=推奨者)にすることが究極の目標です。
コトラー氏はそのために重要なのは、「Wow!」であると語っております。

皆さんは、初めてスマートフォンを手に取ったときにこれを経験しているはずです。「Wow!」とは、このような素晴らしいサービスなどを通して、言葉にできない経験をしたときの感情といわれています。

「Wow!」は、3つの要素から成り立っています。

・予期せぬ驚きから生まれる
・個人的なもので、それを経験する人だけが生み出すことができる
・伝染力がある

多くの方は、この「Wow!」を偶然の産物と考えるかもしれません。しかし、戦略をデザインし、プロセスを作り上げ、計画的に「Wow!」を引き出すことは、偶然とは程遠く、今後の差別化にって重要な要素になってくるでしょう。

世界と顧客は変化し続けている

VUCAの時代と言われる現代、常に世界も顧客も常に変化しています。新たなテクノロジーの登場などにより、顧客の行動も態度も大きく変化しています。

マーケッターは伝統的なマーケティング手法だけに固執するのではなく、新たなトレンド、新たなテクノロジーを理解しながら、顧客との関係性を築き上げていくことが必要となっていきます。