マーケティングコンセプトとは、文字通り、マーケティングをする上での考え方のことで、時代とともに大きく変遷してきました。マーケティングの考え方が登場した18世紀から現在までに生み出されたコンセプトは大きく5つに分類されます。

本記事では、顧客のニーズを満たし、売上を伸ばし、利益を最大化し、自社を成長させるための5つのマーケティング・コンセプトをその変遷の歴史とともに紹介します。

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マーケティングコンセプトとは?

マーケティング・コンセプトとは、マーケティング全体を貫く考え方のことです。「マーケティング」という言葉が認知され始めたのは20世紀初期頃からと言われていますが、マーケティングの考え方自体は、18世紀後半には存在していました。

>>マーケティングとは?知っておくべき歴史や戦略、AI時代に必要なこと

1776年、アダム・スミスは国富論にて、「生産者のニーズは消費者のニーズを満たすことにおいてのみ考えられるべきだ」と、現在のマーケティングに通ずる考え方を示しました。それから現在にいたるまでの200年以上の間、広告、宣伝、販売などのあらゆるマーケティング活動は、企業が魅力的な製品を生み出して顧客のニーズを満たし、売上と利益を最大化させるように進化してきました。

時代背景や経済に影響されながら変遷してきたこのような活動の方向性こそが、マーケティング・コンセプトです。

マーケティング・コンセプトは以下の5つに分類されます。それぞれのコンセプトについて見ていきましょう。

  1. 生産志向
  2. 製品志向
  3. 販売志向
  4. マーケティング志向(顧客志向)
  5. ソーシャル・マーケティング志向(社会公共志向)


プロダクトアウトとマーケットインの歴史

マーケティング・コンセプトを理解する上で、まず初めに知っておいていただきたいマーケティングの基本概念が、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」です。

プロダクトアウトは企業視点、マーケットインは顧客視点を重宝して施策が展開される

プロダクトアウトとは?

プロダクトアウトとは、企業の技術や思想、感性などを優先して、企業の作りたいもの、作れるものを基準に、「企業目線」で商品開発や生産をすることを指します。18世紀後半、産業革命以降、まだ世にモノがあふれていない時代、作れば売れる状況が続き、大量生産を強みとする「作ってから売り方を考える」というプロダクトアウトの考え方で産業・市場は成長してきました。

しかし、1970年代以降、モノが行き渡るようになり、市場は成熟し、顧客のニーズをなおざりにした、作り手本位のサービスや商品は受け入れられなくなりました。そこで、登場したのが「マーケットイン」の考え方です。

企業目線のマーケティング戦略に「4P分析」という手法があります。こちらで詳しく解説しています。
>>マーケティングの4Pとは?

マーケットインとは?

マーケットインとは、プロダクトアウトと対になる概念で、顧客の声やニーズに重きをおいた「顧客目線」の商品開発や生産のことです。近年のあらゆる市場が直面している供給過剰で「モノが売れない」状況では、いかに「マーケットイン」に基づいて、顧客の求める商品・サービスを提供するか、という視点を持った商品開発や生産が求められています。

プロダクトアウトの考え方では商品・サービスに適した顧客を見つけることが目的ですが、マーケットインの考え方では、顧客に適した商品を提供することを目的とします。

企業目線のマーケティング戦略に「4C分析」という手法があります。こちらで詳しく解説しています。
>>マーケティングの4Cとは?

プロダクトアウト:生産者中心の時代

18世紀後半、産業革命の幕開けとともに、最初に覇権を握ったのが、「プロダクトアウト」を基本とする、企業目線のマーケティング・コンセプトです。日本では、よく「プロダクト・アウト=悪」の構図で説明される場合が多いですが必ずしもそうではありません。

例えば、イノベーティブな製品を世に送り出すのが得意である、市場が未熟で製品が出回っていないなど、現代でも場合によっては効果的なアプローチです。むしろ、マーケティング戦略を考える上では、顧客目線と企業目線を両方持っておくことが重要です。

生産志向

生産志向は、製品を「広く、安く、出来るだけ多く」生産することを重視する考え方です。日本では戦後の1950年代から高度経済成長期にかけて、メーカー主導で「大量生産」を基本とする生産志向の販売戦略が取られました。

この時代、市場は未熟でモノは不足していましたが、その分消費に伸びしろがあり、市場は急成長していました。このような、供給が不足しており短期間での成長が期待できる市場では、生産志向のような生産力を拡大する戦略が有効です。

生産志向の例

生産志向を得意とする企業は、大量生産のスケールメリットによって生産・製造を合理化する「安く、どこでも手に入る」ことを競争優位性とします。

製品志向

1970年代、日本では高度経済成長が終盤を迎え、SONYやホンダなどを筆頭に、企業は高い技術力や優れた製品を市場に提供するようになりました。モノがあふれ始めると、消費者はしだいに製品同士を比較してより良いものを求めるようになります。

この段階で、高品質、高性能、多機能、よいデザインなど、より優れた製品を提供することにフォーカスする製品志向が登場しました。企業は、継続してよりよい製品を作り、改善することを最優先に行います。

製品志向の例

Appleは、2001年に「iPod」、2007年に「iPhone」を発売するなど、顧客が想像もしなかったような、革新的な製品を世に送り出し、世界で初めて時価総額1兆円を超える企業にまで成長しました。

Appleの製品のように、高品質で革新的な商品・サービスを提供してレビューや口コミで高評価を得られるようになれば、広告費に多額のコストを注入する必要がありません。企業視点のプロダクトアウトの思想が生み出した製品が爆発的に世界中の市場に浸透し、会社を成長させることがある好例です。

よい製品を提供することはマーケティングの最も基本的なことの一つです。しかし、技術があるからといって、例えば、今の時代に最高品質のフロッピーディスクを開発するのはよい戦略でしょうか。

顧客が求めているのは小さくて容量も多いUSBフラッシュドライブならば、どんなに高機能のフロッピーディスクを完成させても全く売れない、という事態が発生しかねません。過度な企業目線の製品志向にはリスクがあることを忘れてはいけません。

販売志向

需要に対して供給が過剰になると、単に優れた製品を作ってもモノは売れなくなります。この段階で、必然的に「いかに販売するのか」を考える必要が出てきました。

販売志向は、積極的に大規模に販売を行い、そのよいところを訴求することでプロダクトを購入してもらう方法です。注意すべき点として、この販売志向は、その商品・サービスが顧客のニーズウォンツに沿っている必要がないということです。

つまり、企業の都合で生み出された、顧客が必要としていない製品を、よいところを訴求してとにかく買ってもらうことにリソースを注ぎ込む、企業本位の戦略になりかねないアプローチであるともいえます。

関連:ウォンツとは?【初心者必読】>>

 販売志向の例

献血や保険といった、顧客に対してメリットが必ずしも無かったり、リスクを追う可能性があったり、といったサービスは、むしろ大規模に広告や宣伝を行わなければ、顧客が進んで利用しないことが多いと考えられます。

このようなサービスをマーケティングするときに、この販売志向は非常に強力な戦略となります。

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マーケットイン:消費者中心の時代

昨今のように、モノは簡単に手に入り、市場は飽和し、消費者の消費行動が多様化した成熟した資本主義経済では、会社側の都合で作った製品を売る「プロダクトアウト」では、顧客を獲得することが容易でなくなってきました。

代わって登場したのが、顧客のニーズやウォンツを調査し、顧客の求めるサービスを提供する消費者中心の「マーケットイン」の考え方です。

マーケティング志向

販売志向のように、大規模に販売活動を行なったとしても、本当に求められていない製品を売るのには限界があります。そこで登場したマーケティング志向は、「ターゲットのニーズやウォンツ」を意識し、競合よりも優れた価値(競合優位性)を提供することに焦点を当てるコンセプトです。

米国で1950年代以降に登場し、それ以降マーケティングの考え方は日本に広く浸透するようになりました。

多くの企業が、消費者を理解するために努力し、最高の製品やサービスを提供しようとするようになり、マーケティング志向はビジネスの基本的な考え方として定着し、21世紀に突入しても依然中心的な役割を占めています。

ターゲット、ターゲティングについてはこちらでも解説しています。
>>【解説】ターゲティングとは?設定方法からマーケティング戦略での活用まで

マーケティング志向の例

ペプシとコカコーラは、コーラという全く同じ製品を扱いますが、異なった戦略をとって共存しています。例えば、ターゲット一つとっても、ペプシは、若い世代を獲得することに焦点を当てている一方で、コカコーラは、より幅広く顧客を集めることに注力しています。

競合が採用している戦略を後追いするのではなく、綿密な顧客や市場調査に基づいて、自社に最適なマーケティング戦略を考えることが大事になってきます。

時代は社会的マーケティング志向へ

日本に導入されて50年以上たっても主流の考え方であったマーケティング志向は、近年、第5のより洗練された志向、すなわち「社会的マーケティング志向」へと進化しようとしています。社会的マーケティングの概念は、ソーシャルマーケティングとも呼ばれ、顧客だけでなく、社会全体に価値を還元しようとするマーケティングのことを指します。

モノが簡単に手に入り、誰もが物質的に豊かになった現代では、環境悪化、資源不足、人口増加、貧困などの社会的な課題にビジネスが貢献できているのか、むしろ悪化させているのではないか、と疑問を持つ人が増えています。

このような状況から、企業は利益を追求するだけではなく、「長期的な目線を持ち、社会に還元すべき」だという社会的マーケティング志向が広まってきています。

社会的マーケティング志向の例

明治時代に出版され100年以上読み継がれた渋沢栄一の「論語と算盤」には、「本当の経済活動は、社会のためになる道徳に基づかないと、決して長く続くものではない」とあり、社会的マーケティングと同じような考え方がすでに示されています。

また、同時代「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」がよい商売のあり方であるという「三方よし」という言葉も生まれました。先が読めず、社会的な課題の解決が待ったなしの21世紀だからこそこういった考え方は再注目されるようになり、多くの企業が、CSR(企業の社会的責任)を考え、企業として「利益を追求するだけでなく、経済、環境など社会全体でのニーズを捉える」べきだという風潮が高まっています。

 販売志向とマーケティング志向の違い

ここまで、マーケティングコンセプトの変遷を見てきました。本記事の最後に、一見すると、よく似た概念のようにもみえる、販売志向とマーケティング志向の違いを見てみましょう。

比較-販売施工とマーケティング志向にはいくつか違いがある

大きな違いは、企業目線か顧客目線か、です。

販売志向は、どれだけ売るかを突き詰めますが、企業目線が行きすぎてしまうと、どれだけ販売に力を入れても、顧客が本質的に求めていない商品・サービスは売れないというリスクがあります。

マーケティングは、必要とあればもちろん販売に力を入れ、よい商品・サービスを提供しようとしますが、その際にも必ず顧客のニーズや市場を調査し、それに基づいた販売する、顧客目線の考え方です。

常に顧客に寄り添うことこそが、成功の鍵であると考えます。

マーケティングコンセプトまとめ

いかがだったでしょうか。マーケティングコンセプトを考えることは、ひいてはそのビジネスが顧客や社会に何を還元できるのか、を考えることに繋がっていました。マーケティング戦略は企業の在り方をも決定づけてしまいます。

消費行動が多様化し、市場が常に変化し続けている現代だからこそ、マーケティングの方向性を決定するマーケティングコンセプトを今一度考えたいですね。

マーケティング戦略の構築プロセスについてはこちらでも解説しています。
>>《図解》はじめてのマーケティングプロセス-6つの基本理論と事例を解説