マーケティング3.0をご存知でしょうか。マーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラーは、SNSの普及がグローバル化が進んだことで、個人の価値観が変化した結果、マーケティングに求められるものが変化していることから提唱したのが、「マーケティング3.0」です。本稿では、マーケティング3.0の概念から重要な戒律までをご紹介します。ぜひご参考にしてください。
マーケティング3.0は「価値主義」の時代
従来のマーケティングは製品中心・消費者中心と変遷してきましたが、マーケティング3.0では人間の物質的な面だけでなく、社会をより良くしたいなど精神的な面も含めた価値が求められると提唱されています。つまり、マーケティング3.0は価値中心のマーケティング時代と呼ばれております。
文化的・スピリチュアル・コラボレーティブな要素を混合している
フィリップ・コトラーによるとマーケティング3.0は、人間的な崇高な価値観に応えるため、文化的・スピリチャル・コラボレ−ティブな要素によって構成されているといいます。それぞれの要素について簡単にご説明します。
文化的な要素とは、グローバリゼーションが進む中で逆説的に自国のナショナリズムが高揚するために求められる視点です。
コラボレ−ティブな要素とは、FacebookなどのSNSが普及したことで、従来企業からの一方向であったコミュニケーションが双方向になることで、企業と消費者が協同することが求められます。
スピリチャルな要素とは、「よりよい社会にしたい」や「創造的な生活をしたい」という消費者の精神面を意識した視点を持つことが求められることです。
マーケティング1.0、2.0、3.0の違いとは
それでは、マーケティング3.0に至るまでの変遷として、マーケティング1.0、2.0、3.0を振り返りたいと思います。
h3マーケティング1.0:1950年−
マーケティングという概念は、19世紀前半に誕生し、日本では第二次世界大戦直後頃から導入され始めました。
この時代は、企業による製品の大量生産、大量性販売に加え、テレビを中心としたマスメディアが発達し、現代と変わらず、「マス・マーケティング」へと進化しました。どれだけ良い商品を作るか、製品のことをどのようにコミュニケーションするのかという製品中心の時代でした。
h3マーケティング2.0:1970年−
マーケティング2.0へと移行したのが1970年代です。この時代は、オイルショックの影響などで消費者の需要が落ち込み、モノを生産するだけでは売れなくなってきました。
その結果、企業は消費者が本当にどのようなものを求めているのか、どのような需要があるのかなどを調査した上で、プロダクトの差別化などが行うようになりました。消費者の求めるニーズが中心に行われるようになった結果、消費者中心の時代と呼ばれるようになりました。
h3マーケティング3.0:1990年−
マーケティング3.0が提唱されたのは、1990年代以降です。1990年代では、インターネットやSNSの登場により、企業と消費者のコミュニケーションが大きく変わり始めました。
また、プロダクトの機能での差別化が難しくなってきた結果、プロダクトの機能だけでなく、プロダクトから得られる価値やプロダクトを提供する企業がどのように社会に貢献するのかなどが重視されはじめました。これを価値中心の時代と呼ばれます。
マーケティング3.0までの歴史をおさらい
マーケティング1.0-3.0までの変遷をご紹介しました。マーケティング3.0を理解するためには、マーケティングの変遷を把握することがおすすめです。
1950年代(第二次世界対戦後・産業革命)
マーケティングが提唱され始めたのが、1950年代です。プロダクトのライフサイクル、ブランドイメージ、セグメンテーションなどの考え方が普及し始めました。
1960年代(4P分析などの登場)
マーケティングの成熟期です。企業が消費者へのターゲティングなどを検討した4P分析の考え方などが登場しました。しかし、まだ従来のブランドイメージなどのコミュニケーションが主流でした。
1970年代(オイルショック)
オイルショックの影響で消費者の購買行動が変わってきた結果、企業はターゲティングやポジショニングなどの考え方を活用し、差別化戦略などを用いるようになってきました。マーケティングはブランドイメージだけでなく、社会的な要素を意識するようになり始めました。
1980年代(バブル期・顧客との信頼関係を重視し始める)
1980年代は日本ではバブル時代です。消費者の行動がより多様化し、個性化してきました。その結果、それぞれのライフスタイルや価値観を理解し、顧客の信頼関係を築くことが重視され始めてきました。
1990年代(インターネットの登場・セグメンテーション)
1990年代は、インターネットの登場によりマーケティングの考え方も大きく変わってきました。従来マスでのコミュニケーションがメインでしたが、より消費者の価値観などでのセグメントごとでのコミュニケーションが重要になってきました。
2000年代(ROI)
2000年代はマーケティングやテクノロジーが企業内で一般化してきた中で、ROI(投資対効果)が求められるようになり始めました。また、ブランド・エクイティや社会的責任なども一般的になってきています。
マーケティング3.0時代に重要な10の戒律
フィリップ・コトラーはマーケティング3.0時代において重要な10の戒律を規定しています。
・顧客を愛し、競合を敬う ・変化を捉え、常に変化する準備を。 ・価値を明確にし、常にそれを育成する ・最も利益をもたらすセグメントに集中する ・品質にあった公正な価格提供 ・潜在顧客が常にプロダクトを入手できるようにする ・顧客は一生の顧客と考える ・事業はすべてサービス業である ・日々改善を積み重ねる ・収益だけでなく様々な情報を集めて意思決定を下す。
マーケティング3.0には欠かせな3つの「i」
また、マーケティング3.0を進める上で「ブランド」「ポジショニング」「差別化」のバランスが取れていることが重要といわれています。例えば、ポジショニングを設定したら、自然とブランドのアイデンティティが確立されるが、それが適切なアイデンティティとは限らない。そのために意識なければならないのが、3つの「i」とされています。
ブランド・インテグレティ
ブランド・インテグリティとは、ブランドの誠実さともいえます。ブランドのポジショニングを差別化によって支え、ブランドが伝えたいことを消費者に対して約束し実現することです。
ブランド・イメージ
ブランド・イメージとは、ブランドが目指したいビジョンやバリューを示すことで、競合と差別化を行い消費者からの共感を得ることです。ブランドのメッセージに共感した消費者は、ブランドを選んだことに満足感・優越感を得ることも出来ます。
ブランド・アイデンティティ
ブランド・アイデンティとは、ブランドを消費者のマインドの中で定着させるためのポジショニングを検討することです。ポジショニングはユニークであり、消費者にとって価値があるものである必要があります。
3.0時代の2つのソーシャルメディア概念
マーケティング3.0の時代においてソーシャルメディアの活用が欠かせません。フィリップ・コトラーは、ソーシャルメディアを大きく2つの概念で捉えています。
表現型ソーシャルメディア
FacebookやTwitterなど自分の意見を簡単に表現出来る形式のメディアのことを指します。消費者が簡単に意見を表明できるため、口コミなどを活用したマーケティング手法を用いたり、ソーシャルリスニングなどで市場を分析する際に活用されます。
協働型ソーシャルメディア
Wikipediaや食べログなどオープンプラットフォームで参加者が自由に編集を行うことで、集合知として活用されるメディアのことを指します。このようなメディアが登場したことにより、消費者とともに製品やサービスを作り出すCo-creation(共創)という考え方も登場し始めました。
マーケティング3.0の事例
それでは、具体的にマーケティング3.0を活用している事例をご紹介します。
Apple
Appleが成功した一つの大きな理由は、機能や売上を追求したのではなく、人の生活をどのように変えられるのかというビジョンを持って製品・サービスを開発したからです。その結果、iPhoneをはじめとして、iTunesなど新たな体験を消費者に提供し大きなシェアを獲得するまでに至りました。
レッドブル
レッドブルがマーケティングを行う時、商品についてのコミュニケーションをせず、スポーツイベントやミュージックイベントなどのアクティビティーを協賛しています。
それにより、カルチャーを応援するというブランドアイデンティティを作り出し、消費者のファン化を促進しました。このようなファンと共に、カルチャーを創り上げるという共創という考え方を取り入れ大きく成功につなげました。
マザーハウス
マザーハウスとは、バックや小物を販売する企業です。しかし、ただモノを作るのではなく、「途上国から世界に通用するブランドを作る」というミッションのもと、バングラデシュやネパールからの素材を活用して、上質な商品を作ります。マザーハウスのバッグを購入することで消費者は社会貢献しているという気持ちになります。
インターフェースと顧客体験が生き抜く鍵
マーケティング3.0を進めていく上で重要なのは、もちろんブランドのビジョンや価値を規定することだけでなく、それをどのように消費者に伝えるかです。
そのために重要になるのが、インタフェースや顧客体験です。プロダクトのビジョンや価値は、伝えているだけでは伝わりきりません。消費者がプロダクトやサービスを通して、どのような体験が出来るのか、どのように生活が変わるのかを実感することでプロダクトの価値やビジョンが理解できます。
例えば、Appleは機能だけでなく、iPhoneやアップルストア、iTunesなどで上質なインターフェースと顧客体験を提供したことでAppleのブランドへの共感と信仰が生まれます。マーケティング3.0では、どのような体験を生み出すのか、そのためのインタフェースはどうなのかを検討するといいでしょう。
時代はマーケティング4.0へ
現在、マーケティング3.0を超え、マーケティング4.0の時代に移行していると言われています。
マーケティング4.0とは、自己実現の時代と言われております。消費者はより繋がりや体験などを重視し、ブランドはなんのために存在しているのかが常に問われる時代に移行していきます。このような時代の中で、ブランドは実現したい未来とは、自社の存在意義は何なのかを常に検討する事が必要でしょう。
マーケティング3.0に関するおすすめ書籍
最後にマーケティング3.0に関するおすすめの書籍をおすすめします。
コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
マーケティング3.0を学ぶには、フィリップ・コトラーがマーケティング3.0を提唱した書籍が一番おすすめです。事例も交えて紹介しているためとてもわかりやすく、マーケティング初心者でも理解が出来る本になっています。
マーケティング3.0まとめ
いかがでしたでしょうか。マーケティング3.0では、ブランドがどのような価値を提供するのか、どのように社会を変えていくのかが重要視される価値中心の時代です。
現代は更にその先の自己実現の時代に移行していると言われています。しかし、多くの企業はまだマーケティング2.0にとどまっているのも現状です。まずは、自社が提供できるバリュー、消費者が求めているバリューを検討してみてはいかがでしょうか。
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