マーケティング施策を検討したいと思っているが、効果的に検討するためのやり方がよくわからない。一回考えてみたけどあまり効果が出なかったということもあるのではないでしょうか。
マーケティング施策は戦略的なプロセスによって生み出されます。正しいマーケティングプロセスを行うことで「自社の課題をクリア」にし「その課題を乗り越えるマーケティング施策」ができます。
本稿ではマーケティングの初心者から責任者の方向けに「マーケティングプロセス」を紹介します。本稿を読むことで「正しい戦略的なマーケティングプロセス」や「その目的と方法」、「マーケティングプロセスの成功事例」を学べます。マーケティングプロセスの構築や、これまでのワークフローの見直し・刷新に役立ててください。
マーケティングプロセスとは?
マーケティングプロセスとは「自社の環境・目標を明確にし、それを達成するための戦略的な一連のプロセス」を指します。具体的には市場を分析し、自社の価値を明確にし、ターゲットとなる顧客を獲得するまでの流れの設計です。
全体的な流れは次の画像の通りです。
マーケティング・プロセスは6つのプロセスで構成されますが、「環境分析」と「基本戦略設計」、「戦略の実行評価」の3つのステップに大別されます。3つのステップの目的はそれぞれ下記のように整理できます。
- 環境分析:市場を理解し自社事業が参入・成長する機会を発見する
- 基本戦略設計:ターゲットとする顧客を明確にし、具体的なマーケティング戦略を策定する
- 戦略の実行評価:自社の目標と実際の成績を比較し、どのような改善が必要か検討、再実行する
環境分析や基本戦略策定・修正を実行し、市場に対して正しく堅実なマーケティング戦略を遂行することがマーケティング・プロセスのミッションです。
STEP 1:PEST分析でマクロ環境分析
マーケティング・プロセスの最初のフェーズでは、自社事業が参入する市場の環境分析を行い、戦略課題を抽出するための情報を集めます。
そこでまず行うのが、経済や政治などのマクロ環境分析です。自社のプロダクトや会社がおかれている状況を分析することで事業の課題やチャンスなどを把握できます。マクロ環境分析に有効なフレームワークがPEST分析です。
PESTは、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、テクノロジー(Technology)の頭文字からつくられ、それぞれの視点からマクロ環境を分析します。
政治(Politics):ビジネスを規制する法律や政治動向
- 税制や法律などはビジネスに影響はないか?
- 協力企業や顧客がいる国の政治は安定しているか?
- どのような法律や規制がユーザーに影響を与えているか? など
経済(Economy):経済水準や所得、為替、金利
- 経済の景気や成長は事業にどの程度影響するか?
- 株式市場や資金調達市場は事業に影響を与えるか?
- 金利や為替、税金などは事業にどのような影響を与えるか? など
社会(Society):人口動態やライフスタイル、価値観、流行
- ユーザーの年齢や性別などは何か?
- 人口の増減はどの程度、事業に影響するか?
- ユーザーのライフスタイルの変化は購買行動に影響するか? など
テクノロジー(Technology):5GやIoTなど技術革新
- 特許やライセンスは事業に影響するか?
- どのようなイノベーションが事業に影響するか?
- テクノロジーの活用でコストの削減や収益の向上は出来るか? など
STEP2:3C分析でミクロ環境分析
マクロ環境分析の次は、参入市場、競合、自社についてのミクロ環境を分析します。ミクロ環境分析を行うことで、自社のビジネスの成功要因を見つけたり、お金と人のリソースの投下先の検討につながるため、マーケティングの根本にも繋がります。
このミクロ環境分析に有効なフレームワークが3C分析です。3Cは、自社(Company) 市場・消費者(Consumer)競合他社(Competitor)の頭文字からきています。それぞれのポイントは下記ご確認ください。
市場・消費者(Consumer)
- あなたの顧客は誰か?
- 売上の構成や傾向は?
- 顧客数はどの程度伸びているか?
- 顧客が購入するまでのプロセスは?
- 顧客がなぜあなたのプロダクトを求めるのか? など
競合(Competitor)
- 競合は誰か?
- 競合の市場シェアは?
- 競合の強みと弱みは?
- 市場は競合をどのように位置付けてるか? など
自社 (Company)
- 売上は?
- 目標との差は?
- 文化は?
- パフォーマンスは?
- 強みと弱みは? など
3C分析の進め方やポイント、成功事例などをさらに知りたいという方はこちらの記事をご覧ください。
STEP3: SWOT分析でマクロ・ミクロ環境を俯瞰する
マクロ・ミクロ環境を分析できたら、SWOT分析で分析状況を俯瞰し、自社のビジネス課題や市場機会を洗い出します。
SWOT分析では、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの点から、3C分析とPEST分析の結果を俯瞰します
強み、弱みは「自社内の内的要因」を指し、機会と脅威は「自社ではコントロールできない外的要因」を指します。
機会(Opportunity)
- 未開拓の市場はあるか?
- 市場にトレンドがあるか?
- 市場規模はどれくれいか?
- 市場はどの程度成長しているか?
- 市場参入・成長する可能性はあるか? など
脅威(Threat)
- 懸念する問題はあるか?
- 自社が参入する時の障害は?
- 競合は新規参入に排他的か?
- 規制などが行われる可能性は?
- 協力企業や顧客の交渉力は強いか? など
強み(Strength)
- 得意な業務は?
- 競争優位性は?
- 活かせる組織文化は?
- 競合企業より優れている点は?
- バリューチェーン内でコントロールできるものは? など
弱み(Weakness)
- 不足しているリソースは?
- 能力発揮を障害するものは?
- 認知度やブランドはあるか?
- 価値を生み出すまでのコスト構造は?
- 限られたリソースの中で成功に必要なものは? など
クロスSWOT分析
SWOT分析を行うだけでは要素を書き出しただけです。書き出した要素をかけ合わせることで戦略の方向性を検討できるのがクロスSWOT分析です。
- 強み×機会:強みで市場の機会を最大化する「積極化戦略」
- 強み×脅威:強みで市場の脅威に対処する「差別化戦略」
- 弱み×機会:弱みで市場の機会を活用する「段階的戦略」
- 弱み×脅威:弱みで市場の脅威に対処する「専守防衛・撤退」
SWOT分析のポイントや成功事例などをさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
STEP4:STP分析で基本戦略を策定
環境分析ができ、自社の市場機会や課題が見えてきたらマーケティングの基本戦略を検討します。
その時に行うのがSTP分析です。STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つのステップで自社のマーケティング戦略を検討します。
セグメンテーション(市場細分化)
セグメンテーションは、「どの市場に優先的にアプローチしていくかを決めるために市場を細分化をする」ことです。細分化する方法はさまざまで、代表的なものとしては、年齢や住んでいる地域などのデモグラフィック変数、国や住んでいるエリアなどの地理的変数、ライフスタイルなどの心理的変数、購買頻度などの行動変数などです。
細分化した市場の規模や成長性を把握することで、資源を集中して投下でき、効率的なマーケティング戦略の構築を可能にします。
セグメンテーションについて詳しく知りたい方はこちらの記事も読んでみてください。
ターゲティング
市場の細分化ができたら、「自社が理想とする顧客像を絞り込みます」。
セグメンテーションを行った中から、どの層を狙っていくのかを検討します。数ある市場の中から市場規模や成長性、競合状況などを鑑みたうえで自社に最も適した顧客像を確認します。
ターゲティングは顧客の解像度を高め、限られたリソースで利益化を最大化できます。
マーケティングでよくある失敗として、顧客をすべての人とオールターゲットと設定してしまったり、10代などと幅広いターゲットと設定しまうことです。
このように誤ったターゲティングをすると、ROIの悪化などに直結します。そのようなことを避けるためにもターゲティングをしっかり行うことが重要です。
ターゲティングのポイントなどさらに詳しく知りたい方はこちらの記事を御覧ください。
ポジショニング
ターゲティングにより自社がターゲットとする明確な顧客像を選定したら、ポジショニングで「顧客にどのように自社が魅力的であるかを認識させるための活動」を行います。
顧客は競合企業と比較して購入するプロダクト・サービスを決めます。それゆえ、自社のプロダクト・サービスが競合と比較して「何が違うのか」「どの点が優れているか」と言った差別化ポイントを明確にする必要があるのです。
成熟した市場ではプロダクト・サービスが溢れているため、ポジショニングの役割は重要です。顧客が「私はこれを求めていた」「この商品が欲しい」と思わせる差別化を行い、マーケティング戦略に活かしましょう。
ポジショニングを行うためポイントやコツを知りたい方はこちらを御覧ください。
STEP5:マーケティングミックス
STP分析を行ったら、次はマーケティングミックスです。マーケティングミックスでは、「顧客に価値を伝達・アプローチする施策」を検討します。
マーケティングミックスは、広告などプロダクトやサービスを顧客に認知させる手段や販売場所、価格などの検討をします。マーケティングミックスを検討する際のフレームワークには、4P分析や4C分析があります。
4P分析
4Pは製品戦略(Product)、価格戦略(Price)、流通戦略(Place)、販促戦略(Promotion)のそれぞれの戦略を検討するフレームワークです。それぞれの項目をご紹介します。
Product(製品戦略)
提供するサービスやパッケージデザイン、ブランド名などプロダクトやサービスの詳細を検討します。
Price(価格戦略)
提供するサービスやパッケージデザインの価格やサブスクリプション型か、売り切り型かなどの課金制度の詳細は検討します。
Place(流通戦略)
プロダクトやサービスの販売場所や流通網の詳細を検討します。狙っている顧客の行動導線やプロダクトのイメージ等を鑑みて検討します。
Promotion(販促戦略)
プロダクトやサービスを認知するための施策や興味関心を促進するための施策の検討をします。たとえば、TVCMやイベントの実施、リスティング広告、DMなどがあります。
4C分析
4Cは顧客視点のフレームワークであり、Consumer Value(顧客価値)、Cost (コスト)、Convinece to buy(購入のしやすさ)、Communication(コミュニケーション)の視点で戦略を検討します。4P分析が企業目線に対して、4C分析は買い手である顧客視点で戦略を検討します。
CUSTOMER VALUE(顧客価値)
プロダクトやサービスによって顧客がどのような価値を得られるのかという顧客価値の検討をします。
COST(コスト)
顧客がプロダクトやサービスに対してどれだけ費用や時間を負担するのかを検討します。プロダクトやサービスのコストだけでなく、時間や販売場所までの移動コストなども換算します。
Convenience to buy(購入のしやすさ)
顧客が商品を手に入れる利便性を意識して、購入場所や販売場所などを検討します。
Communication(コミュニケーション)
企業が顧客にメッセージを伝えたり、顧客と関係性を構築する手段を検討します。
STEP6:戦略の実行と評価
マーケティングの戦略を検討するだけでは効果はありません。多くの場合、1回の戦略立案・実行だけではビジネスは成功しないからです。そのためマーケティング施策を実行した後のために測定可能な目標とマイルストーンを設定する必要があります。設定する目標はSMARTであることがポイントです。
- 具体的に(Specific):何を達成したいのか?
- 測定可能な(Measurable):どのように進捗を測定するか?
- 達成可能な(Achievable):その目標は達成できるか?
- 経営目標に関連した(Relevant):自社のミッションに関連しているか?
- 時間制限がある(Time-Bound):目標を達成する期限はいつか?
目標設定を終えたらそれらを達成するために必要なコストを洗い出します。必要に応じて予算の規模や、実施するマーケティング施策を調整しマーケティング戦略を実行します。
マーケティング・プロセスの重要性
ビジネスは顧客と自社を満足させる必要があります。戦略的なマーケティングプロセスを経ることで、これら両方の理解を行い具体的なマーケティング戦略を実行できます。特にマーケティング戦略において以下のポイントの理解は欠かせません。
- 自社のターゲット顧客を絞る
- 自社プロダクトの提供価値を知る
- 自社が対象とする顧客の理解を深める
またマーケティング戦略の計画や目標があることで、ビジネスの方向性が明確になることや、予算の浪費が防げます。これにより組織内全員が同じ目標に向かって働けます。それに加え、戦略の結果に応じてマーケティング戦略を修正していくことで、戦略を進化させることも可能です。具体的には顧客ニーズをより満たすための人員の再配置や、お試し価格といった販売促進などができます。
以上のように自社の市場の機会を発見し、それを獲得するための地に足ついた戦略を立案でき、「顧客により求められるには」を考えられる点で、マーケティングプロセスは重要なのです。
デジタル領域の場合のマーケティングプロセス
デジタルマーケティングの場合においてもマーケティングプロセスは大きくは変わりません。デジタルマーケティングの特徴は、消費者との接点が多岐にわたり、リアルタイムでデータを取得し分析できることです。
そのため、デジタル領域でのマーケティングミックスでは、複合的な施策が検討ができます。また、リアルタイムで検証を行えるため、施策の検討から効果検証、改善のPDCAサイクルを素早くまわすことができます。その結果、スピーディーな戦略の策定を実現し、高い効果を出すことができます。
BtoBの場合のマーケティングプロセス
BtoBの場合は、BtoCプロダクトと比べて購買までのプロセスが長く、より論理的な説明が求められます。
また、BtoCと比べても高価格帯の商品が多く、アフターサービスも重要になります。
基本戦略の設計まではBtoC向けのマーケティングプロセスと大きく異なりません。しかし、BtoBの場合では、見込み顧客獲得の後に、関係性を築くリードナーチャリングや顧客を獲得した後のアフターフォローの内容などを検討する必要があります。
マーケティングプロセスで成功した企業の事例
マーケティングプロセスはビジネスの成功に欠かせないフローです。自社の課題を発見でき、またその課題を乗り越える方法も見つけられます。そのためには「顧客の理解」と「成功するためにはどうしたら良いか」に対して愚直に向き合う必要があります。
【資生堂】シーブリーズ
女子高生がよく利用する「シーブリーズ」というボディケア製品があります。2000年までは男性のユーザーがほとんどでした。しかし海に行く人が少なくなったことでシーブリーズの売上が下がり、この製品を提供する資生堂は事業の存続を問われました。
資生堂はマーケティングプロセスを見直します。そこでシーブリーズが提供する価値は海に行く男性だけでなく、女子高生にも効果があることを発見します。ターゲットの変更と合わせてマーケティング戦略を変更し、低迷期の8倍の売上を記録しました。
【マクドナルド】2014年の不祥事からの回復
国内3,000店舗以上あるマクドナルドですが、2014年に賞味期限切れの鶏肉が使用されていたニュースをきっかけに、多くのユーザーを失った事件があります。事実2014-2015年に567億円の損失を抱えてしまったのです。
マクドナルドはこの事件をきっかけに「利用しなくなったユーザーをどう取り戻すか」を考え、マーケティング戦略を練り直します。始めに対象のユーザーにインタビューを行い「顧客が本当に求めるマクドナルド像」の理解に努めたのです。
ユーザーインタビューの結果、マクドナルドはポジショニングを変更します。事件以前は「おいしい・安い・早い」でしたが、「出来たてで美味しい・価値に対してお得感がある・便利で楽しくて笑顔になれる空間」を目指したのです。具体的には以下の施策を実施しています。
- 裏メニューの提供
- お手頃マックの提供
- ポケモンGOが利用できる
顧客インサイトを軸にメニューの開発や店舗の改装などを実施した結果、2年で250億円の営業利益を獲得することに成功しています。
【Laxus】ブランドバッグのサブスクという選択肢
Laxusはブランドバックのレンタル事業です。2015年に事業開始以降ユーザーを拡大しています。1品数万円のブランドバッグは気軽に購入できるものではありません。しかし、多くの女性のには季節やシーンごとに使い分けをしたいというニーズがあります。このようなニーズを捉え、ブランドバックをサブスクリプションでレンタルできるというビジネスモデルを開発し、他社とは違うポジショニングでビジネスを展開しています。
Laxusのマーケティングミックスは、サブスクリプションモデルで月額6,800円でブランドバッグをレンタルできるという価格戦略、鑑定やクリーニング済みのブランド限定のバッグの品揃えという製品戦略、WEBやアプリで気軽に申し込みできるという流通戦略など、優れた点がいくつかありました。
このビジネスには、品薄やブランドバッグや利用者の使い方などのリスクも有りましたが、リスクを想定したターゲティングや、関連サービスで品薄に対応したことで、今後も堅調な成長していくと思われます。
まとめ
本稿では「マーケティングプロセス」について解説してきました。マーケティングは企業経営に不可欠です。またマーケティングには戦略的なマーケティングプロセスが必要です。各プロセスの手順や目的、重要性を理解することで精度の高いマーケティング施策を実行することができます。また戦略は実行してからが勝負です。戦略実行の結果を基にマーケティングプロセスを繰り返し、修正・改善していくことでビジネスの成功に近づけるでしょう。
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