マーケティングを行う上で「どのように顧客を動かせばいいのだろうか」ということを課題に感じたことがありませんか。そこで有効なのがマーケティング心理学です。心理学というと、難しく、実践で役に立つのかわからないなと思うかもしれません。しかし、心理学とは顧客の行動や心理を科学的に実証したものであり、マーケティング施策でも大きな活躍が期待されます。そこで本稿ではマーケティングに役立つ心理学を一挙紹介します。

マーケティングに役立つ心理学34種

一貫性の原理 :フリートライアル

一貫性の原理とは、顧客が一度自分の立場を明確にすると最後まで同じ立場で一貫性をもたせたいと考える心理的原則です。

社会心理学者であるチャルディーニ博士の「影響力の武器」で紹介されています。一貫性の原理を利用したテクニックに、「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれるものがあります。

これは、営業マンがドアに足を入れることさえできれば販売に成功するというものです。

「ドアに足を入れるのを許す」という立場にコミットさせることで、顧客は営業マン自体を許すという立場を取ることになるというものです。

また、近年ではサブスクリプションサービスの1ヶ月無料などのフリートライアルも一貫性の原理を活用しています。顧客がフリートライアルの申し込みにコミットすることで、1ヶ月後もサービス継続して利用する可能性が高まります。

返報性の原理:おまけ、ホワイトペーパー

返報性の原理とは、いいことをしてもらったら、その相手にお返しをしてあげなければいけないと考える人間心理です。

返報性の原理を利用した例として、お見積りをするだけで洗剤やおまけなどをもらえるなどがあります。

顧客は何かをもらうと、心理的なハードルが下がり、なにかお返しをしてあげないといけないと感じ、購入や契約をするというものがあります。

その他にも、スーパーでの試食やホームページなどでのホワイトペーパーなどのダウンロードコンテンツも返報性の原理を活用した事例です。

上述した「影響力の武器」でも返報性の原理に関して下記のようなデータがあります。

欧米では支払いの際にサービスの対価としてチップを支払う習慣があります。請求書とともにミントを一つ持っていくと、通常よりも3.3%、ミントを2つ持っていくと通常よりも20%も多くチップを支払ったそうです。

マジカルナンバー :7不思議、3種の神器

マジカルナンバーとは、人が短期記憶できる情報の塊の数です。最初に1956年にジョージ・ミラー教授により提唱されました。

当初、7不思議、7つの大罪など世界に”7”に基づく例が多いことから、人が記憶できる数は「7±2」とされていました。

しかし、2001年にコーワン教授が発表した論文では、「4±1」が人の短期記憶の限界とされています。現在では、コーワン教授の数字が一般的とされております。

具体的な施策には、ホームページや商談でなるべく多くの情報を伝えたくなりがちですが、3−5の要点に絞り込むなどの工夫するなどがあります。

決定回避の法則 :選択肢が多いと決定できない

決定回避の法則とは、選択肢が多いと逆に行動を起こせなくなるという原則です。シーナ・アイエンガー教授の「選択の科学」で下記の実験が紹介されています。

あるお店の前でジャムの試食を6種類のジャムをおいた場合と24種類のジャムをおいた場合での購入率を比較しました。

そうすると、24種類のジャムの場合は3%であったのに対して、6種類の場合は購入者が30%という結果になりました。

ここから、選択肢が多すぎることで、購入の意思決定ができなかったのではということがわかります。選択肢を絞ることで購入を促進するようにしましょう。

認知的不協和:食事制限無しでダイエット

認知的不協和とは、人は自分の中の基準やルールに矛盾したものに対して無意識的に不快感を感じるというものです。

本棚の並び順があっていないと不快感を感じますよね。
マーケティングでは、逆に不快感を感じさせることで興味関心を引くといった形で活用されます。

例えば、「食事制限無しでダイエット」、「寝ているだけで年収1000万円以上」など普通に考えると違和感を感じる内容をヘッドコピーにすることで、その不快感を解消するために読んでみたい、商品を使ってみたいと思わせるなどの手法などがあります。

ピーク・エンドの法則 :アフターフォロー

ピーク・エンドの法則とは、ダニエル・カーネマンによって提唱された心理仮説であり、人は経験した時間の長さよりも最良や最低などのピークのふれ幅と最終局面で判断するというものです。

例えば、2時間の映画でもクライマックスの印象で映画の良し悪しを判断するといったことや、テーマパークで2時間行列を待ったとしてもアトラクションが楽しいと待っていた辛い記憶は忘れてしまうといったことです。

ビジネスでは顧客満足度などを上げるために活用できます。サービスがいくら良くても、最後の印象が悪いと良くなかったという印象が残ってしまいます。

逆にサービスにミスがあっても、最後にフォローがあるとその印象が残り、また来店したいと思うかもしれません。

マッチングリスク意識 :無料お試しセット、返金保証

マッチングリスク意識とは、購入する商品やサービスが、本当に満足のいくものなのか不安に思う心理です。

購入して間違いないのかという不安から購入に躊躇してしまうため、企業側はどのようにリスクをなくせるかを検討する必要があります。

例えば、無料お試しセットなど事前に商品を試せる機会を設定したり、返金保証などで購入のハードルを減らすといった手法が有効です。

バイヤーズリモース :購入直後の後悔

バイヤーズリモースは、大きな買い物をした直後に後悔を感じる心理です。

消費者は購入するまでにテンションを上げていき、購入時点の満足度がピークとなり、その後冷静になっていく中で顧客満足度が下がっていき、返品などに繋がる可能性があります。

そこで企業に必要なのは、バイヤーズリモースを起こさせないためにもアフターケアです。例えば、DMやメルマガなどで有効な情報を送ることやサンクルレターなどを送るなどが有効です。

カクテルパーティー効果:名前を入れて話す

どんなにガヤガヤしていても自分の名前が呼ばれると気がつくということがあるかと思います。このような自分に関心があることや名前などを認識することをカクテルパーティー効果と呼びます。

人は、自分が興味のないことは無意識にシャットアウトする仕組みになっています。そのため、企業やブランドはいかにして消費者に認識してもらうかが重要になってきます。そこでカクテルパーティー効果を活用し、顧客の名前や興味あることを入れたメッセージを送ることで、興味関心を抱いてもらう工夫が有効です。

ストループ効果 :赤は止まれ

ストループ効果とは、独立した2つの情報に矛盾があると認識するのに不快感を感じるというものです。

例えば、赤い文字で「青」と書かれていると、赤と青どちらも認識するためには通常より時間がかかります。他に緑は進め、赤は止まれと認識しているため、赤い文字で進めと書かれていても認識がしづらいです。

マーケティングの施策では一瞬が勝負です。そのため、消費者に認識してもらうためにもメッセージとデザインの整合性などストループ効果を意識しましょう。

カリギュラ効果 :絶対に〜しないでください。

カリギュラ効果とは、何かを禁止されることで余計にそのことが気になってしまう心理です。

例えば、昔話の「鶴の恩返し」はカリギュラ効果の話です。広告コピーでも「〇〇な人以外は読まないでください」という形で消費者の心をくすぐります。

文脈効果:「北海道の自然が生んだ〜」、「英国紳士が愛した〜」

文脈効果とは、周囲の環境や状況に合わせて対象への認識が変わる心理効果です。

例えば、テーマパークなどではドリンクや食べ物の価格が通常よりも高く設定されています。しかし、テーマパークにいるという特別感や非日常という文脈が加わることによりそこまで高く感じないというのが文脈効果です。

文脈効果の活用法としては、「北海道の自然が生んだ」、「英国紳士が愛した」などコピーとして活用したり、お店ではBGMやインテリアなどを整えシチュエーションを作るなどの方法があります。

フレーミング効果 :全米が泣いた

フレームング効果とは、表現方法などを変えることで物事の受け取り方が変わるという行動経済学の理論です。

例えば、コップに水が半分入っていても、「まだ半分もある」と思うのと「もう半分しかない」というので認識の仕方が変わります。このように消費者に相対評価を促すような表現方法を呈示することで商品の把握の受け取り方が変わります。

フレーミング効果を活用した事例としては、価格や商品自体について伝えるなど様々な手法があります。例えば、価格の場合8%割引セールよりも消費税還元セールの方が魅力的に見えたり、商品についても「7%が満足しなかった」と呈示するよりも「93%が満足」と提示しているほうが魅力的に見えます。

スリーパー効果 :時間経過と情報の信頼性が高まる

スリーパー効果とは、信頼できない情報源からの情報であっても時間が経つと情報への信頼性が高まっていくというものです。

例えば、信頼できない友人から聞いた噂話でも聞いたときは信じていなかったが、時間が経つと噂話のことだけを覚えているというようなものです。

このようなスリーパー効果を活用して、簡単には落とせない顧客や上司などを説得します。その際のポイントは、キーワードを刷り込む、表現を変えながら伝える、相手に判断させるということです。

アンダードッグ効果:業界第2位

アンダードッグ効果とは、負け犬効果とも呼ばれ、弱い立場や不利な立場にいる人を応援したくなる心理です。一生懸命やっているけど結果につながらないという人に対しての同情心とも言います。例えば、万年勝てないスポーツチームを応援したくなるなどがあります。

このようなアンダードッグ効果を活用した事例としては、2000年にKDDIが実施した「2位が世界を面白くする。通信業界現在2位」というキャンペーンなどがあります。2位ということを提示することで応援したくなる気持ちを刺激するというものです。

プロスペクト理論 :期間限定キャンペーン

プロスペクト理論とは、目の前に提示されたものの損失度合いで、人の意思決定が変化するという理論です。

例えば、期間限定セールなど今買わないと損をするという心理を刺激したり、「100人に1人無料」では自分が無料になるかもという得するかもという心理を刺激することで購買意欲を促進します。

ウィンザー効果 :〇〇がおすすめ

ウィンザー効果とは、直接言われるよりも第三者に言われる方が信頼するという心理効果です。

例えば、専門家のおすすめのお墨付きがついている方が印象よくなるなどがあります。口コミマーケティングやインフルエンサーマーケティングもウィンザー効果を活用しているといえます。

ツァイガルニク効果 :続きはウェブで

ツァイガルニク効果とは、完璧なものよりも不完全な、未完成な物事に興味を惹かれるという心理効果です。

例えば、よくテレビ番組などで「続きはCMの後で」というフレーズがあるかと思います。これもツァイガルニク効果を狙い、視聴の継続を狙ったものです。

活用方法としては、コンテンツの一部だけを無料公開するといったことや「続きはウェブで」など別のメディアからウェブに誘導するなどの施策があります。

アンカリング効果 :最初の価格の影響を受ける

アンカリング効果とは最初に提示された情報がその後の判断に影響を与えるというものです。これは、船のいかりを下ろすことから名付けられました。

例えば、普段5000円では買わない商品があるとします。しかし、その商品がもともと10,000円だったところ、セールで5,000円になっていたら、お得と感じて購入するかもしれません。

テンション・リダクション効果:オプション提示

大きな買い物をした後に気持ちが大きくなってしまい、おすすめされたものも購入してしまうのをテンション・リダクション効果といいます。

例えば、自動車を購入する時にオプションをおすすめされて、ついつけてしまうなどがあります。その他、Amazonなどのレコメンド機能もこの一つです。

クレショフ効果 :関連性のない画像に勝手に関係を解釈する

クレショフ効果とは、複数の画像になんの関連性がなくても無意識に関係性を解釈する心理効果です。

例えば、リポビタンDのCMでは、崖を登る男とリポビタンDは全く関係ありません。しかし、視聴者はピンチな時にエネルギーを得られるのがリポビタンDだなと勝手に解釈します。このように全く関連性がなくても、消費者に解釈してもらいたい文脈を前後の画像・動画で形成することでブランドイメージ構築等に活用できます。

ハロー効果 :有名人の活用

ハロー効果とは、目立つ特徴に引きづられて、他の要素まで評価してしまう認知バイアスの一つです。

例えば、TVCMで有名人を活用する事によりイメージを植え付けるという例があります。

また、Redbullは広告では商品のことを言わずにエクストリームスポーツへの協賛や宣伝を行っています。これにより、Redbullはクールな商品というイメージを植えつけに成功しています。

ヴェブレン効果:ブランド品

ヴェブレン効果とは価格が高いほど購入意欲が高まる効果です。ヴェブレン効果は一般的な価値観とは逆ですが、富裕層が見せびらかす自己顕示欲を満たすことが目的です。

例えば、ブランド品や貴金属などが自己顕示欲を満たすヴェブレン効果を狙った商品と言えます。

コンコルド効果(サンクコスト効果):もったいない

コンコルド効果とはサンクコスト効果とも言われ、金額や時間を投資し続けるのが損とわかっていても今までの投資が無駄になるのが惜しんでやめれられないという心理です。

例えば、モバイルゲームに飽きてきたけど今までの課金アイテムなどがもったいなくてやめられない、などがあります。

初頭効果 :第一印象が大事

初頭効果とは、ユーザーが第一印象が強く印象に残り行動に影響するという行動心理です。例えば、ウェブサイトのファーストビューで伝えたいメッセージを伝えたり、セールストークの初めに伝えたいポイントを伝える方法などがあります。

特に消費やブランドに対しての関心が低い顧客に対して効果的です。

ディドロ効果:コレクション

ディドロ効果とは、新たなモノで価値観が提供されると、その新たな価値観に合わせて自分の生活環境や持ち物を統一したくなる心理です。

例えば、机を一つ買ったらそれに合わせてインテリアも揃えたくなるようなものです。これを活用した事例として、モバイルゲームでアイテムをコンプリートしたくなることで購買意欲を促進するなどの例があります。

ザイオンス効果 :何度も接触

ザイオンス効果とは接触回数を増やすことで親近感が湧くという心理効果です。

例えば、全く興味ない商品やブランドでも何度も目にするうちに興味関心が湧いてくるというものです。ブログやSNSの更新やメールマガジンの発行などの手法があります。

バーナム効果(フォアラー効果):自分向けと思わせる

バーナム効果とは、誰にでも当てはまるものが自分向けと思わせる人間心理です。例えば、性格占いなど誰にでも当てはまることを自分のことだと思わせることなどがあたります。

バーナム効果を狙ったマーケティングへの活用方法として、「上司とうまくいかないと思っているあなたへ」など自分向けを思わせるキャッチコピーを作成するなどの手法があります。

コントラスト効果 :情報の差が実際の差を大きく感じる

コントラスト効果とは、2つ以上のものの差異があると実際の差よりも大きく感じるという心理効果です。すいかに塩をかけると甘く感じるというのもその一つです。

例えば、値段が1000円となっているものより、1500円から500円引きされて1000円となっている方がお得に見えます。比較対象を作ってあげることにより消費者が選びやすくするということです。

保有効果 :無料体験

保有効果とはモノの価値を所有することで、所有する前よりも高く感じ、そのものを手放せなくなる心理のことです。

保有効果は、所有していたことにより愛着が湧いたり、失う損失の方が大きく感じてしまったりすることにより起きます。

保有効果を感じてもらうためには、まず顧客に商品を一度利用してもらうことです。無料体験などで商品やサービスを一度利用してもらうことで価値を体験してもらうことで手放したくはないと思わせるなどの施策があります。

シャルパンティエ効果 :これだけで一日分のビタミン

シャルパンティエ効果は、身近な例を使うことで心理的な錯覚を起こさせる減少です。

例えば、「この錠剤一つで一日分のビタミンが取れる」というように消費者にとってわかりやすい形で伝えることで商品の良さをアピールするという施策などがあります。

ゴルディロックス効果(松竹梅の法則) :真ん中の選択肢を選ぶ

ゴルディロックス効果とは、3つの選択肢があったときに消費者が真ん中の選択肢を選ぶ人間心理です。

日本では、松竹梅の法則とも呼ばれ、選ぶ確率は、松:竹:梅=2:5:3と言われています。

この効果を逆手に取り、真ん中の価格帯に一番売りたいものをおくといったことなど価格の検討する時に活用しましょう。

ブーメラン効果 :思わぬ反発・抵抗

ブーメラン効果とは、自分が思った方向に向けようとすると相手が逆の方向に向いてしまうという心理効果です。

例えば、子供の頃「宿題をやろう」と思った時に両親に「宿題をやりなさい」と言われるとやる気が無くなるというものがあると思います。それがブーメラン効果です。そこで企業はブーメラン効果を促さないようにすることを意識する必要があります。


【+α】イノベーター理論は消費者心理の解像度を上げるきっかけに

最後に消費者心理を理解するために有効なイノベーター理論をご紹介します。イノベーター理論とは、新たな価値観や技術をベースにした商品やサービスが市場に普及に関する理論です。

イノベーター理論では、新たなサービスや商品を受け入れる人の順に、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティー、ラガードで分類したものです。それぞれの分類について下記で詳しくご紹介します。

イノベーター理論は消費者心理の解像度を上げるきっかけになる

イノベーター(革新者)

革新的な新商品をいち早く利用する層です。この層は商品の善し悪しで判断するのではなく、最先端の技術や新しいということを重視して利用します。市場の約2.5%程度を占めます。

アーリーアダプター(初期採用者)

アーリーアダプターは、流行に敏感で自ら情報収集し、自分で良いと判断した商品を購入する層です。他の消費者にも大きく影響を与える層でもあり、オピニオンリーダーともいわれる層です。市場の約13.5%を占めるといわれています。

アーリーマジョリティー(前記追随者)

アーリーマジョリティーは、話題になっているものを購入するそうです。話題や流行を逃さないように市場全体より少し早く取り入れます。全体で34%を占めます。

レイトマジョリティー(後期追随者)

レイトマジョリティーは、新たなサービスや新技術に懐疑的な層です。市場の過半数を受け入れてから新たな商品の購入を行います。市場全体の約34%を占めます。

ラガード(遅滞者)

市場全体の16%を占め、新しいものに関心はなく、むしろ受け入れたくないと思っている層です。

マーケティング心理学まとめ

いかがでしたでしょうか。心理学はマーケティングにも活用できるため学ぶことのメリットは大きいです。本稿でご紹介したのはマーケティング心理学の一部です。

もし、興味がある人は更に調べてみてはいかがでしょうか。調べる対象としては、社会心理学、認知心理学、行動心理学、行動経済学などがおすすめです。マーケティングに活用できる心理学ももれなく応用できます。