「マーケティングマイオピア」という概念を聞いたことがありますか?マイオピアとは、了見が狭いこと、近視眼的という意味です。「マーケティングマイオピア」は日本語では近視眼的マーケティングと訳され、目の前の事象にばかり目がいってしまった結果、自社の本当の価値を理解せず市場から衰退してしまう状況を指します。
本稿では、マーケティングマイオピアの定義から、なぜマーケティングマイオピアが起きてしまうのか原因や実際の事例をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
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マーケティングマイオピアのまとめ
マーケティングマイオピアとは、マーケティングに対する視野が狭くなってしまっている結果、市場から衰退していく状態のことを指します。マーケティング・マイオピアが起こる理由は、例えば
・売上を上げることに集中し、顧客との関係性を築くことがないがしろ
・顧客のニーズを理解せず、製品中心の開発に傾倒してしまう
・大量生産によるコスト削減に集中
・市場が拡大し続け、代替品がないと信じ込んでいる
などです。
下記では、このようなマーケティングマイオピアを避けるための3つのポイントを紹介します。マーケティングマイオピアに陥ることは経営の失敗と言われています。自社の状況を判断し、環境に応じて柔軟に対応できるようにしましょう。
仕事や経営に高い当事者意識を持つ
製品中心から顧客中心にシフト
自社のサービスの定義の切り口を柔軟に考えること
それでは、下記より詳細にご説明していければと思います。
マーケティングマイオピアとは
マーケティングマイオピアとは、1960年にハーバード大学セオドア・レビット教授が論文で提唱した考え方です。50年以上前の論文ですが未だに色褪せず、現在の市場でも当てはまる事が多い考え方です。
マーケティングマイオピアは、マーケティングに対する視野が狭くなってしまっている状態のことを指します。自社が現状の戦略のまま成長し続けられると思い込み、間違った点にフォーカスしてしまったり、自社の商圏を狭く定義してしまい消費者や市場環境の変化、競合企業との戦いに負けていくことです。
マーケティングで近視眼的になってしまった結果、企業は市場から衰退していくと言われています。
マーケティングマイオピアが起きやすい環境
マーケティングマイオピアが起きやすい状況は、下記のような環境に陥った場合とされています。
・顧客との関係性構築よりも売上げアップに集中
・需要を理解せずに大量生産を行う
・顧客のニーズを理解せずに売上・コストなどの要素だけに集中
・市場環境が大きく変化していても、自社の変化を避けたがる
自己欺瞞(ぎまん)のサイクルがマーケティングマイオピアのトリガーに
マーケティングマイオピアに陥る環境にいるのに、自社がそのような環境にいる事に気づかない自己欺瞞のサイクルに陥ってしまうことが、マーケティングマイオピアの状態を引き起こすトリガーになっています。
自己欺瞞のサイクルに陥る4つの原因
このような自己欺瞞に陥る原因として、レビット教授は4つの原因を挙げています。
「市場が拡大し続ける」と信じている
論文が発表した1960年代も今も世界的に見ると人口は増加し続けています。そのため成長が安定している企業は、人口増加に合わせて需要が増加し続けるということを前提に経営戦略を検討しているところも少なくありません。
しかし、人口増加は、市場拡大とイコールではありません。人口が増加したとしても、新たなテクノロジーが開発されることで市場自体が衰退する可能性もあります。
「代替品が存在しない」と信じている
マーケティングマイオピアに陥る企業で、市場において圧倒的なシェアを築いている企業も少なくありません。成長市場には様々な企業が参戦してきますが、自社のシェアを見てそのような状況がひっくり返ることがないと甘んじる企業もいます。
しかし、ライフスタイルの変化、新たなテクノロジーが開発され、急速に需要が変化することがあります。
「大量生産によるコスト優位性」を信じている
成長している企業は、規模や経験によってコスト優位性を獲得します。しかし、登場して間もない新たな技術やサービスはコスト優位性がありません。その結果、従来の企業は新規サービスなどを競合とはみなさないという状況があります。
「既存製品の改善に集中」すればいいと信じている
コスト削減、新機能の開発など既存製品の改善は悪いことではありません。しかし、既存製品の改善が目的化してしまい、コストを削減したり、新しい機能を追加したが、顧客がそこに価値を感じない可能性があります。
このように、マーケティングマイオピアに陥る企業によくあるのが、製品中心の思考になってしまい、顧客が求めていることをないがしろにしてしまうケースがあります。その結果、市場環境やライフスタイルの変化についていけずマーケティングマイオピアに陥ります。
マーケティングマイオピアの理解に欠かせない4つの事例
マーケティングマイオピアを理解するために、4つの具体例に合わせてご紹介したいと思います。
事例1:鉄道業界について
まずご紹介するのは、アメリカの鉄道業界です。1960年代アメリカの鉄道業界は、大きく衰退しました。その時代背景としては、車社会化が進んだとともに、旅客手段としても航空運送、自動車運送などのインフラが整ったからと言われています。
レビット教授は論文でこの鉄道業界の衰退は、鉄道業界がマーケティングマイオピアに陥ったからと分析します。鉄道業界は、自社を「鉄道事業」という狭い定義をしてしまった結果、代替サービスの登場やライフスタイルの変化についていけずに衰退したと考えられます。
もし、顧客が求めているのが「移動」ということを理解していれば、自社を輸送事業と捉え、衰退することはなかったかもしれません。
事例2;ハリウッド映画について
レビット教授の論文で提示されている事例が1960年代ごろのハリウッド映画市場です。1950年頃テレビが家庭に普及したことで映画館への動員数が激減し、多くの映画館が閉館しました。
このとき、ハリウッド映画業界は自分たちを「映画事業」という狭い定義をしました。その結果、テレビを脅威とみなし、俳優をテレビに出演させないなどの妨害工作に終始し顧客の奪い合いを行いました。
しかし、顧客の視点から見れば、映画もテレビもエンターテインメントも一つに変わりありません。もし、ハリウッド映画業界が自分たちを「エンターテイメント業界」と定義していれば、新たなビジネス展開ができたかもしれません。
これと同じようなことは、Netflixなどのネットストリーミングサービスが出てきたときのテレビ業界でも繰り返されています。
事例3:コダックのカメラ事業について
コダックはアメリカでは、シャッターチャンスのことを「コダック・モーメント」とも呼ばれるほどカメラ・フィルム事業で圧倒的1位の企業でした。しかし、2012年には破産を申請しました。
フィルム・カメラの大手コダックが破綻した理由もマーケティング・マイオピアと言われています。自社の製品のシェアが大きいフィルムや写真の現像に集中してしまい、デジタル化や新たな消費者トレンドについていけませんでした。
例えば、現在のSNSの先駆けともなる写真共有サイトを買収したり、デジタル写真印刷を促進するためにしか活用できなかったり、デジタルカメラも開発していましたが、フィルムカメラと同様のクオリティにならなかったことから販売を取りやめにしたりなど既存製品、サービスという狭い視野に囚われてしまいました。その結果、破綻することになります。
事例4:Yahoo!の衰退について
4つ目は、Yahoo!の衰退です。Yahoo!はインターネット黎明期に登場し、一時は時価総額13兆円だったのが、最終的には5,000億円でベライゾンに売却をしました。Yahoo!の衰退もマーケティングマイオピアが原因とされています。
Yahoo!はインターネット黎明期にポータルサイトとして、ニュース、オークション、検索エンジンメールなど多様なサービスを提供し、インターネットにアクセスするときの入り口として様々な人がアクセスするサイトとして大きなシェアを拡大しました。
しかし、iPhoneの登場から人の行動がだんだんモバイル化していく中で、従来のビジネスから脱却できず、モバイル化するスピードが他のサービスと比べて遅れた結果、顧客が他のサービスに移行していくこととなりました。従来のビジネスという狭い視野でいた結果、市場環境の変化についていけなかったのがYahoo!の衰退の大きな原因とされています。
マーケティングマイオピアを回避する3 つの方法
マーケティングマイオピアの事例をご紹介してまいりましたが、マーケティングマイオピアに陥らないためにはどうすればいいのか、回避する3つの方法をご紹介します。
仕事や経営に高い当事者意識をもつ
レビット教授の論文の冒頭で、「事業が縮小するのは決して業界自体が飽和したり、縮小しているのではなく、経営者の問題だ」と断言しています。マーケティングマイオピアに陥らないために、企業は顧客を理解し、その企業と取引がしたいと思わせなければなりません。
そのためには、担当者・経営者は仕事や経営に高い当事者意識を持ち、事業の方針、目的に対して大きな責任をもつ必要があります。
盛衰に縛られず、産業を様々な切り口から考える
アメリカ鉄道業界やハリウッド映画事業の事例でもご紹介したように、マーケティングマイオピアの原因の一つは、自社の事業の定義を狭く捉えすぎたしまったことです。事業の定義を狭く捉えてしまった結果、新しいテクノロジーやサービスなどの変化に対応できなくなってしまいました。
このようなことを避けるために、自社の産業を様々な切り口で捉え、顧客を理解し、変化に柔軟に対応する事が重要です。
企業中心から顧客中心志向へ
マーケティングマイオピアの原因の一つは、既存製品の改善にこだわるあまり、顧客の需要やニーズがないがしろになってしまうことです。以前は、商品やサービスラインアップが限定されていた結果、企業中心のマーケティングでも十分効果がありました。
しかし、マーケティング4.0時代ともいわれている現在、情報メディアも増え、企業と双方向なコミュニケーションが可能になったりいます。その中で、企業は顧客のウォンツ、ニーズを理解する顧客中心の思考が求められています。
顧客中心志向(マーケティングコンセプト)に関しては、下記記事も参考してください。
>>【解説】5つのマーケティングコンセプトとは?その変遷と違いを知ろう
>>企業視点の4Pから顧客視点の4Cへ
ウォンツ・ニーズに関しては、下記記事で解説しています。
>>ニーズとは?
>>ウォンツとは?
「新しいマーケティングマイオピア」とは
1960年代にレビット教授によりマーケティングマイオピアが提唱されて以来、多くの企業がマーケティングマイオピアに陥るのを避けようと試行錯誤しています。しかし、マーケティングマイオピアを避けようとした結果、近視眼的になってしまっているのが、新しいマーケティングマイオピアと呼ばれています。
新しいマーケティングマイオピアに陥る3つの原因
新しいマーケティングマイオピアに陥る原因は以下の3つと言われています。
顧客に傾倒しすぎて競合・株主・従業員などの他のステークホルダーがないがしろになっている
顧客のあるニーズに偏りすぎている
市場環境・ビジネス環境の変化の把握を誤る
新しいマーケティングマイオピアを解決する5つの方法
最後に、新しいマーケティングマイオピアに陥らないための5つの方法をご紹介します。
企業に関係するステークホルダーをリストアップ
ステークホルダーの重要性を整理
ステークホルダーの課題と期待を検討
ステークホルダーとの関係を築く
ステークホルダーとの会議を定期的に持つ
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