リモートワークの普及やAIの台頭など社会は急速に変化しています。市場の動向や顧客のライフスタイルの変化を読み取り、企業の利益に貢献するマーケティングを仕事にするマーケターの重要性が増しています。
本稿では今、再注目されているマーケティングの仕事内容とこれからの時代に必要な働き方を紹介していきます。

まずは、マーケティングとは何かを理解しよう

マーケティングという言葉をよく聞く機会が増えましたが、その中身をもう一度おさらいしておきましょう。マーケティングとは「儲かる仕組みを作る」仕事を指します。
業務内容としては顧客と企業をつなぐプロダクトや市場調査、セールスプロモーションなど多岐にわたります。そのため「顧客と企業の接点作り」から「実際に売り上げ」「製品の利用で顧客に満足してもらう」まで一連のプロセスを指します。

マーケティング担当者は、顧客ニーズ(市場機会)の発見のため市場調査し、結果を分析し戦略を立案します。基本的にはデータに基づいた資料やその分析結果から戦略や改善計画を立案、実行するため数字に触れる機会が多いです。そのため数学や統計学などの知識があると活躍の幅が広がります。
詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。


【職種別】各種マーケティングの仕事内容を紹介

顧客と企業経営にかかる全てのプロセスはマーケティング職の対象です。そのため職務内容の範囲は広いです。ここではマーケティング職の主な仕事内容をご紹介します。

商品企画

顧客のニーズ(市場機会)の発見のために行われる、市場調査やマーケティングリサーチなどの分析結果に基づいて商品企画をします。多くの場合、
一口に商品企画と言ってもアプローチが2種類あります。

ひとつは「新しい商品を企画する」、もう1つは「既存の商品をより良くする」仕事です。いずれの場合においても市場や競合、顧客の動向などの変化を読み解き、顧客が求める価値を作ることを目的としています。

また自社製品が提供する価値だけでなく、その価値のプロセスにも注意を払います。例えば「協力してくれる企業がいるか」や「業務体制に問題がないか」などです。そのため幅広い視座と知識が求められます。

販売促進

製品が多く存在する成熟社会においては、顧客に自社製品を知ってもらうことが難しいです。そのため「顧客との接点」は非常に重要になります。多くの企業はこの機会を作ろう・活かそうと販売促進(キャンペーン)を実施します。よく目にかける「入会特典」や「〇〇%割引」などがこれにあたります。

これらの販売促進はコストにあたります。費用対効果がある顧客セグメントの見極めが必要です。当然ながら費用対効果の検証は販売促進の企画から効果の検証までデータに基づきます。

営業企画

良いものを作れば必ず売れるわけではありません。顧客に製品をどのように知ってもらい、どんな情報を与え、購入してもらうか考える必要があります。また営業活動における顧客の意見を、製品の改善に活かせる体制作りも考慮すると良いでしょう。

市場調査・マーケティングリサーチ

マーケティングの目的は「儲かる仕組みを作ること」にあります。しかし顧客が製品やサービスを購入しなければ、そもそも売れることがありません。

そのため顧客ニーズ(市場機会)の発見が重要になります。また顧客ニーズがあっても競合他社がそのニーズをすでに満たしていることがあります。

「市場機会を発見すること」「自社が優位になるビジネスをするため」にPEST分析や3C分析、SWOT分析を利用して分析します。また数値化しづらい顧客の感情などをヒアリングやアンケート調査などによって明らかにしていくことも重要です。

広告・宣伝

自社の営業活動ではアプローチできる顧客に限りがあります。そのためより多くの人に知ってもらうため広告や宣伝方法を検討し、ターゲットとする顧客によって広告出稿する媒体を変える必要があります。

顧客の生活の中で知ってもらうため、ターゲット顧客のライフスタイルによって宣伝する先を変えるのです。なぜなら認知できる可能性と人数に差が出るからです。

例えば若者に宣伝をしたい場合、テレビでなくSNSでの広告を用いるといった具合です。また広告や宣伝も販売促進と同じように費用対効果を見極めます。

マーケティングの仕事ができる企業

マーケティングを仕事にするためには事業会社か支援会社・代理店で働く必要があります。一般的には「事業会社は自社の利益」に「支援会社・代理店は他社の利益」に貢献するためにマーケティングします。それぞれについて詳しくご紹介します。

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事業会社

メーカーやWEB関連の企業はマーケティング専門の部署や担当者がいることが多いです。そのためマーケティングの仕事ができる機会があります。しかし入社後マーケティング以外の部署からキャリアが始まることが多く、マーケティングを仕事にするまでに時間を要します。

マーケティングの知識は概念であることが多いです。実際に現場で働くことで実務レベルでマーケティングを学ぶことができます。

またマーケティングを軸にした事業会社に行くことで外部での講習や資格取得支援など、マーケティングスキルの向上をサポートしてくれます。

下記の会社はマーケティングで成功しています。事業会社でマーケティングを仕事にするとマーケティングを包括的に学べる・実践できるだけでなく、自社製品や顧客、市場、業界などについても知れます。

  • P&G、ネスレ、土屋鞄など

支援会社・代理店

マーケティングを仕事にしたい時、マーケティング支援・代理を行う会社で働くという手があります。事業会社と同じく実践的なマーケティングを学べる他、資格取得などマーケティングスキルの向上をサポートしてくれる利点があります。

またクライアントのマーケティングをサポートする仕事です。そのため事業会社に比べ、マーケティングを仕事にするまでのスピードが早いです。

下記企業は総合的なマーケティングの支援する会社です。
また支援会社や代理店の中には、動画広告の制作やSEO施策、市場調査など、マーケティングの一部業務を代行する会社があります。

  • サイバーエージェント、博愛堂、オプトなど

マーケティングの仕事で身につくスキル

マーケティングは市場環境と事業活動に密接に関係しています。

そのためマーケティングを仕事にすることで、「仮説・論理思考」「データ収集・分析能力」「事業計画力」など、多くの知識やスキルを獲得できます。

飲食店を例に考えてみましょう。

お店の情報がwebページにあり、顧客がwebページを見て来店するまでの行動が「電話」と「地図閲覧」だとします。この場合の状況は以下の通りです。

客単価3,000円/人
電話来店率50%
1組あたりの人数5人
地図閲覧来店率10%
1組あたりの人数2人
売上 = {(電話本数 × 来店率 × 1組あたりの人数) + (地図閲覧 × 来店率 × 1組あたりの人数)} × 客単価

マーケティング職の経験で、上記の計算式によってマーケティング施策を立案したり「顧客が来店するまでの流れ」や「電話本数増やすための改善策」「顧客はなぜ当店にくるのか」など計算式外の要素が分かるようになります。

マーケティングは事実を収集することから始まり、それらから仮説・推論することでマーケティング施策へと繋げていきます。定量と定性の領域を行き来することで、深いスキルが身につくのです。

どんな人がマーケティング職に向いてるのか

企業の成長を左右するマーケティングを仕事にしたい方は多いと思います。マーケティングを仕事にする時、求められる代表的な能力は次の通りです。

  • 仮説思考と論理思考
  • 事実や傾向から発想する能力
  • 正しいデータを収集、分析できる能力
  • アイデアを実現するまで努力できる能力
  • 絶えず顧客や市場、自社のリソースまで幅広い知識の吸収と活用する能力

マーケティングは先述の通り幅広い業務範囲を持ちます。また社会の変化に合わせて新しいマーケティング手法などを学び続ける必要があります。

未経験でもなれる?

未経験であってもマーケティング職に就くことはできます。しかし求人には限りがあるため誰でもなれるわけではありません。企業から「この人ならマーケティングの仕事ができそうだな」と思ってもらう必要があります。

そのために、マーケティングの勉強や自分ができる範囲での実践などをすると良いでしょう。

持っていると活かせるスキルとは?

マーケティングの仕事はデータを基にした業務が多いため数学や統計学、データマイニングなど知識があると活躍の幅は広がります。

現代は急速なIT化により、溢れかえるほどの情報を取得することができます。そのためプログラミング知識があると、たくさんの情報を、人間の手を使わず一度で処理するなど、マーケティング業務での活用が期待できます。

マーケティングの仕事に資格は必要か

マーケティングの仕事に資格は必要ありません。しかし資格があることで「マーケティング能力の証明」や「今よりもスキル・キャリアアップ」、「独立」を目指せます。特にマーケティング初心者やキャリアアップを目指す方の資格取得はおすすめします。
詳しく知りたい方は下記ご覧ください。

マーケティングの仕事で取り組まれること

主にマーケティングで行われている仕事について詳しくご紹介します。

市場調査(マーケティング・リサーチ)

市場と顧客を理解するために行われます。調査の方法は2種類です。政府や大学などが発表している統計資料やアンケート調査などデータを用いた定量分析と、ターゲットになると想定される消費者を集めたインタビューなどの定性分析です。

セールスプロモーション

セールスプロモーションは製品の認知や販売促進を目的として行われます。テレビ広告やWEB広告、DMやイベントが主な代表例です。それぞれ詳しくみていきましょう。

マスマーケティング

テレビやラジオ、新聞、雑誌の4マスメディアを活用する手法です。幅広い層の消費者に向けて認知が可能です。大きな効果が期待できるぶん、費用が大きくなります。また広告の効果検証が難しい特徴を持ちます。

WEBマーケティング

バナー広告、リスティング広告、メールなどインターネットを活用した手法を指します。主な特徴は3つです。データの収集が可能なため、顧客の趣向に合わせた戦略を実施できます。また広告の効果がデータで収集できるため効果検証が容易です。最後に少額から実施することが可能です。

セールスプロモーション広告

左記の2つにあてはまらない手法をセールスプロモーション広告と呼びます。DM広告やイベント、フリーペーパーなどを指します。

日本のマーケティングの問題点と、マーケターの必要性

公益財団法人日本生産性本部が2019年12月に発表した「労働生産性の国際比較 2019」によると労働生産性はOECD加盟国36カ国中、日本は21位です。

労働生産性は「GDP ÷ (労働投入量 ÷ 労働者数 × 労働時間)」で測ります。アメリカと日本では大きく労働時間が変わるわけではありませんが、順位に差がでています。これは付加価値であるGDPの差が大きく離れているためです。

マーケティング発祥の地アメリカでは今、マーケティングオートメーション(MA)が注目されています。マーケティングオートメーションとは旧来、人の手で行われていた業務を自動化することです。これによりコストが削減され、また質の高いリード獲得に時間を割くことが可能です。

日本には質の高いプロダクトが多く存在します。しかし、このようなポテンシャルが十分に活かしきれていない現状があります。そのためマーケターの存在が必要なのです。

マーケティングの仕事をする上で重要なこと・役立つ視点

マーケティングに答えはありません。その中で自分なりの答えを出し、実践するのがマーケターです。ここではマーケティングの仕事をする上で重要なことや役立つ視点をご紹介します。

「数字は神より正しい」から生まれた違和感

マーケティングは売り上げを上げることだけが目的ではありません。マーケティングの目標は「儲かる仕組みを作ること」です。つまり短期的な売上だけでなく、継続的に売れる”仕組み”を目的だからです。

しかしながら、売上優先で顧客の共感をないがしろにする事例が散見されます。例えばwebサイトの閲覧中、全画面に広告が表示されたり(オーバーレイ広告)、動画閲覧中に全く関係のない不快な広告が流れるなどです。

マーケターは定量的・定性的の面から売上と向き合う仕事ですが、顧客の「共感」なしにはプロダクトの成長がないことを理解しましょう。

美しい戦略よりも顧客と市場を理解すること

マーケティングは事業を飛躍的に成長させる力を持ちます。テキストやweb上にはマーケティングを活かした華やかな成功事例が数多くあります。

しかしその業務は泥臭いものです。戦略を理解し実行することよりも、顧客と市場細かく継続的に観察し、理解することが求められます。

限られたリソースの中で答えを見つけ、企業を成長させる必要があります。机上の空論にとらわれず、堅実に泥臭く、市場と顧客の理解に励みましょう。

伝統的なマーケティングを学ぶこと

最新のマーケティング手法を駆使すれば、必ず成長するわけではありません。数年前に生きていた手法も、今では使い物にならないということが珍しくないからです。

リゾート開発の達人と呼ばれる星野リゾートは教科書通りの経営をすることで有名です。目新しさやトレンドより、本質的で伝統的なマーケティングを理解しましょう。

チームビルディングはマーケティングの限界を超えるためのツール

企業経営はマーケティングや営業、システムなど多くの部署(専門のチーム)によって成り立っています。

しかしマーケティングの守備範囲は企業内外に渡り、マーケティング部あるいはマーケティング担当者だけでは限界があります。マーケターに求められるのは顧客と市場を理解し、適切にチームを動かす能力も必要でしょう。

マーケティングの仕事は、人工知能・コロナ時代でどう変わるか

企業経営は市場の環境によって変化してきました。

1950年代~1970年代の高度経済成長期は大量生産の時代で、とりわけ会計(原価計算など)能力が成長を支えました。また成熟期に入るとマーケティングを活かし顧客ニーズや競合との差別化によって成長する企業が出てきました。

現代においては、スマートフォンの普及や人工知能の台頭などによる急速なIT化や、新型コロナウイルスの影響で普及したリモートワークという働き方など、環境の変化が見られます。このような状況化においてマーケティングの仕事はどのように変化するのでしょうか。

人工知能の登場と、マーケティングの将来性

人工知能(AI)は次の特徴を持っています。

  • 分析、分類が得意
  • 24時間365日働ける
  • よりパーソナライズされたアウトプットが可能

そのため定量的な分析業務は人工知能が担うと言われています。また今まで勘に頼らざるを得なかった顧客行動やデータ収集・分析の結果をスコアリングすることもできます。

これらから、マーケティングの仕事は人工知能が行えない企画などのクリエイティブな領域がメインになると言われています。

マーケティングの仕事は市場と顧客の間をつなぐ仕組み作りです。そのため景気に左右されにくい特性を持ちます。またマーケティングの仕事で得る知識や経験は、どの仕事でも活用することができます。

コロナの存在とデジタル化の加速

新型コロナウイルスの影響でリモートワークを余儀なくされた会社が多いです。これを受け、あらゆるビジネスがデジタル空間に現れるようになりました。

この社会の変化はマーケティングの仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。

市場や顧客の変化はビジネスの前提に影響を与え、とりわけ働き方や生活の変化は既存の事業プロセスの見直しが求められます。例えば事業会社で対面での営業が売上のきっかけだったとします。リモートワークが主流になると対面営業ができず収益の見込みが立たなくなるのです。

新型コロナウイルスの影響によりデジタル化が加速しています。インターネット上に顧客との接点がない企業は店舗を持っていないのと同じです。

新型コロナウイルスとデジタル化の加速によって、マーケターは事業の組み直しや、WEBマーケティングへの知識が今後も求められるでしょう。

マーケティングの仕事は奥深く、泥臭い。それでも楽しい

本稿ではマーケティングの仕事についてご紹介してきました。

市場や顧客の動向、分析など、マーケティングには答えがないので奥深く、泥臭い仕事です。その守備範囲は広く、常に新しい知識をインプットし続ける必要があります。

しかし、自分のアイデアが企業の成長を助ける仕事であり、企業経営に欠かすことのできない重要な役割を担っています。社会の変化が激しくなる今後も、より一層重宝されるのではないでしょうか。