世界的にスタートアップブームになっており、日本においても第4次ベンチャーブームと言われております。現在官民による投資機会も増えエコシステムが整い始めています。現在、今後スタートアップが日本に文化として定着していくかの瀬戸際です。本稿では、日本のスタートアップのエコシステムの現状、課題、世界で戦っていくための視点などを紹介します。
日本のスタートアップエコシステムの現状
メルカリの時価総額約7,000億円で上場、Japan Taxi、クラウディアン等の大型投資のニュースなど、日本でスタートアップへの注目が集まっており、第4次ベンチャーブームとも言われています。ここでは現在の日本のスタートアップエコシステムの現状を外部環境、機会、資金、起業家の4つを軸にご紹介します。
外部環境
J−Startupなどのプログラムや様々な機関などの支援の政府の支援が増えたり、大企業による投資が増えたり現在日本のスタートアップエコシステムの外部環境は大きく改善されています。大きく影響しているのは、大企業がスタートアップエコシステムに参画してきていることです。
これまで日本の大企業は自前主義があり、技術や製品が自社内で開発・研究されたものでないものでなければ、採用しないという風土がありました。そのため、スタートアップの目的である買収などのエグジットが浸透せず、スタートアップ文化が日本で進行しませんでした。
しかし、急速な技術や市場の変化に伴い、外部との連携などのオープンイノベーションの考え方やスタートアップへの投資など積極的に検討しはじめています。例えば、トヨタ、三井不動産などの大企業がベンチャーの投資をはじめております。実際、企業によるベンチャー投資、コーポレートベンチャーキャピタルの投資案件も2013年頃と比較して4.5倍の水準で増加しております。
また、スタートアップ周辺サービスも拡充しています。例えば、エンジニアのマッチングサービス、スタートアップメディアが拡充したり、コーワキングスペースが東京だけでなく全国的に広まっています。それ以外にも、シリコンバレーからアクセラレー タの500 Startupsやクラウンドファンディングのキックスターター(Kickstarter)が進出してきたも増えてきています。このような傾向は、政府の支援や大企業からの進出なもあり、日本のスタートアップ市場が今後拡大していくと考えられているからでしょう。
機会
機会とは、ピッチコンテンストやインキュベーション施設などスタートアップを支援するためインフラを指します。日本でもピッチコンテストなどの機会が増えていますが、まだまだ世界に比べると、プレゼンやデモを紹介する場にしかなっておらず、インフラといえる段階までは整っていないのが現状です。
例えば、ヘルシンキで行われる欧州最大のスタートアップイベント「スラッシュ」(SLUSH)で大手企業、投資家も多数参加するため、投資の機会となるだけでなく、起業後のネットワーク構築にも活用されている。また、フランスでは、Pass French TechやFrench Tech Ticketといったサポートプログラムや40以上のインキュベーション施設があるなどスタートアップを支援するサポートを行っています。
今後、日本においても大企業や大学などを巻き込んだ機会づくりが期待されます。
資金
近年日本のスタートへの投資金額は増加しております。2018年は過去最高額を更新しており、2013年に比べると5倍近い金額が調達されております。(図1) これは外部環境でご紹介したようにCVCなどの大企業による投資が増えたことや1社あたりの調達金額が大幅に上昇した影響もあります。
enterpedia-Japan Startup Finance Report 2018 より
しかし、世界の他の先進国に比べるとまだまだ少ないのが現状です。例えば、スタートアップの発端となるシリコンバレーがあるアメリカは、1年で9兆5千億円、近年スタートアップへの投資が盛んな中国では、3兆3千億円と全く規模は違います。大企業などによる投資などが盛んになり始めていますが、まだまだリスクを取りたがらない文化であるといったことや、エグジットを目的としているVCにとって日本はまだ規模が小さい市場であるなどが原因と考えられています。
起業家
起業家文化もまだまだ他国に比べると定着していないのが現状です。起業に関心があると答える人は16%と、世界の先進国と比べるとかなり低い割合です。成人100人以内で起業準備中または起業してから3年以内の合計人数で示す総合企業活動指標においても他国と比較して大きく下回る。(図2)
JETRO-「日本のスタートアップ・エコシステムは形成されたのか」より
企業に日本が経済停滞を長年実感してきたことによる安定志向傾向なことや日本の失敗に対する不寛容な文化的背景によりチャレンジ精神が培われなかったためです。
現在海外のスタートアップの成功事例の情報がよく入ってきたり、巷で起業家が注目されることにより徐々に起業家意識が強まってきています。その中でも特に特徴的なのが大手企業から起業やスタートアップに参加する若者が増えていることです。
大企業からの流入
現在、スタートアップの起業家にある傾向として、大学卒業後に大企業で一度就職した後、起業する人が増えています。フォーブスジャパンが発表した日本の起業家トップ10のうち8人は、起業以前の職歴が中央官庁や大企業でありました。また、起業家だけでなく、エンジニアも大企業からスタートアップに転職する人も増えています。
このような動きは、年功序列や終身雇用などの既存の日本的な人事制度に限界を感じ、このままレールに乗っているのではなく、自分の力で新たな挑戦をしたいというように新たな価値観を持った層が出現してきたからと考えられます。そのような層が起業やスタートアップへの就職という選択肢をとることにより、スタートアップへのイメージ向上にもつながっており、今後更に増加していく可能性もあるでしょう。
日本のスタートアップエコシステムの課題、解決策
日本のスタートエコシステムは整備をはじまっていますが、まだまだ課題があるというのも現実です。ここでは日本スタートアップの課題に関してご紹介します。
文化
シリコンバレーが大きくスタートアップの聖地として成功してきた理由として、失敗を失敗とみなさない文化が大きく影響します。どんなスタートアップでも、必ず多少の失敗を経験します。シリコンバレーにおいては、失敗は当然という前提があり、失敗は朝鮮の証として評価されます。このような前提があるため、起業を一旦保留し、他のスタートアップをサポートするといったような「バックバーナー」という考え方などが定着しエコシステムを形成されています。
しかし、日本においては、前述したとおり失敗に不寛容な文化背景があるため、起業に失敗するとなるとマイナスイメージがつきまとってしまったり、投資側にしてもリスクをとった選択も避ける傾向にあります。現在、大学や大企業がスタートアップに参画するCVCが浸透しはじめていますが、シリコンバレーの起業と比べても日本企業は負担できる金額規模が違うこともあり、今後この傾向が長期間継続できるのかが大きな争点になるでしょう。
アフターマーケット
スタートアップのエグジット(Exit)の一つとして、上場があります。日本は他国と比較しても上場がしやすい珍しい市場です。しかし、その分他国と比べて企業段階が早い段階で上場する傾向があります。2016年に東証マザーズ上場した企業の平均時価総額は66億円、新株発行による調達額の平均は7.5億円と、シリコンバレーの規模感に当てはめるとアーリーステージからミドルステージの段階です。
そのため、デメリットも生じています。市場のデメリットとして、エグジットによる株式売買をゴールとしているVC等はエグジットの規模感が小さいため投資が限定的になってしまうということです。
また、スタートアップ企業側もデメリットがあります。アーリーステージなどまだ企業運営が定着していない段階では、VCなどからのサポートが重要です。しかし、上場したことにより一般投資家に対して4半期毎の事業推移を説明するなど新たな業務が発生する一方、独り立ちをしなければなりません。成長段階のスタートアップにとってサポート無しでの企業運営は簡単ではありません。このように、上場以後のアフターマーケットを活性化されることも日本のスタートアップエコシステムの発展に必要です。
グローバル化
日本のスタートアップが中規模になる理由の一つとして、事業内容が国内向けに限定されている手堅い事業になっていることがあります。世界的に成功しているスタートアップを例にしてみても、グローバルでの成長は欠かせません。しかし、日本企業は海外スタートアップ企業の焼き直しであったり、社会的なインパクトを与える短期的に成果が見えない事業には資金投資が消極的だったり、チーム体制がほとんど日本人で形成されてしまい、グローバル視点が抜けているため、グローバルへの進出がうまく行ってない企業が多いのが事実です。
このようなことを改善するためには、社会的・経済的課題を解決するような日本ならではのアイディアや技術の発見を推進したり、中長期的な成長を前提としたハイリスクな資金投資ができたり、アーリーなステージでのIPOを避けるような環境の整備や、国籍関係ない多様な人材を編成できるような環境設備が必要になる。
今後グローバル化はスタートアップを始め、日本企業にとっては欠かせない視点です。国内だけでなく、海外にどのように進出していくのか、そのための環境設備も重要になってきます。
世界で戦っていくために必要な視点
ご紹介していくように今後スタートアップにとってグローバル化は必須の視点です。現在、グローバル化をしていくために必要な視点を最後にご紹介します。Google、Facebook、Amazonなど私達の生活の周りは気づけばアメリカのスタートアップのプラットフォームに囲まれていることからわかるように、スタートアップが成長する上で、グローバルに展開していくという視点は欠かせません。まず、重要なのは、グローバルに展開していくのだという気概をしっかり持つことです。海外のサービスの輸入のようなサービスではなく、日本ならではの視点から世界に展開していけるようなビジネスの検討をしましょう。
グローバルに展開していくためには、日本人だけのチームでは限界があります。グローバルなタレントを巻き込みながら一緒に仕事をすることが重要になっていきます。しかし、日本は他国と比べて、プレゼンテーション能力やリーダーシップの能力が劣っているとも言われています。それは、英語に苦手意識があったり、以心伝心で物事が伝わるといった文化背景から起因します。
しかし、今後グローバルで活躍していくためには、決して上手である必要はありませんが、ロジックがあり説得力があり、人を巻き込んでいけるようなコミュニケーションができることが必要になります。このような能力の訓練も継続的にしていきましょう。
まとめ
日本のスタートアップ市場は、第4次ベンチャーブームと言われるように大きく盛り上がっています。しかし、まだ世界のマーケットと比べると、資金の問題や起業精神など課題があるのも事実です。また、スタートアップ自体もグローバリゼーションをしていくという視点で、アイディア、組織構成をしていくことなどが今後欠かせません。今後スタートアップ文化が浸透するか否かをしっかりウォッチしていきましょう。
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